マケルヘラン「指揮する技術」 第三版への追加と補説
第三版への追加と補説
p.6
リーダーシップをめぐるサラトガ音楽祭での物語4題
ユージン・オーマンディは前夜、フィラデルフィア管弦楽団を指揮し、息を呑むような開幕コンサートを終えたところだった。コーラスが、ヴェルディ「レクイエム」のリハーサルのため舞台に待機していた。私はかの
**
著者の友人のひとりが、ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮のリハーサルに顔を出したが、そこで強烈に感銘を受けたのはオーケストラが見せた熱狂ぶりであった。彼は通りがかったトランペット奏者に尋ねた。
「あの人の何が、皆さんをそんな風に仕向けるんです?」
「彼は本当に
**
ある朝、著者は年配のヴィオラ奏者と歩いていた。その人は、口調で「ウィーン・フィル」だと明かしていた。
「昨晩は、易しい
「易しいものなど何もないです」。その返答には、生涯を完璧さの追求に費やしてきた者の、
**
サラ・コールドウェルは、フィラデルフィア管弦楽団との最初のリハーサルを終えたところだったが、気圧される思いをしたのではないだろうか。著者は奏者たちに聞いてみた。「彼女はどうだい?」
「
**
p.7
**
p.16
左手の使用にこだわる人に対してどうしても生じる疑問に、右利きと同様の
著者は、右肩の
**
p.47
トロント交響楽団の首席チェロ奏者は、長きにわたりレオ・スミスという年配の紳士だった。ある時、他の奏者が彼に尋ねた。「レオ、あなたが絶対に入りをとちらないのはどういうわけなんです?」
「数えてるんだよ」。静かな答えが返った。
**
p.58
**
p.60
ストコフスキーがすでにこの世の人でないのはもちろんだが、この論点に変更はない。
**
p.72
著者が最近聞いた極めて風変わりな
**
p.78
本書の出版からほどなく、イングランドの紳士から手紙を頂いた。それは、テンポがいきなり変わって速くなり、
**
p.80
一流交響楽団の常任指揮者となった最初の米国人のひとり、ソー・ジョンソンがかつて著者に語ったことだが、「
**
p.89
著者は最近、フェルマータはきっちり
**
p.92
パトリック・チュン医学博士からの、以下のご教示に感謝申し上げます。「耳鼻咽喉科医が推奨する、耳垢を取り除く効果的な方法の一つは、耳垢を市販の耳垢軟化剤で軟らかくしてから、
**
p.93
3a. ちょっとした神経の
3b.
**
p.110
ソリストに気をつけよ。人間だもの、かれらも予想外の驚愕を喰らわすことがある。ある時、私はシューベルトの
マケルヘラン「指揮する技術」第27章 指揮を教えることについて
第27章
指揮を教えることについて
作曲家、また教師としての偉大なる先達、ヒーリー・ウィランがつねづね語っていた
この助言は、指揮にも指揮者の訓練にも等しく当てはまる。どちらも時間がかかる。教師と学生は、各々の強みと弱みとを分析し、前者を伸ばし、後者を克服する手立てを考え出さねばならない。しかし、歌を書くことと指揮との間には大きな違いがある。
必要とされるのは、
教育機関によっては、指揮の学生用に
一案として、大人数の
ほとんどの指揮
著者が好む部分的解決策の一つは「
個人レッスンには、グループ授業にまさる明らかな長所がある − 指導者はその生徒に専念できる − いっぽう、楽団の前に立つ機会は失われ、双方向でコーチし合う経験もそうだ。学生は音なしで指揮してもよいが、録音やピアノに合わせてもよい。また教師は、間違い音の
これらのささやかな提案を軽んじることなかれ。忘れないでほしい、人ひとりすら満足に指揮できない者に、舞台の
言い古されたことだが、指揮における最大の困難は、指揮する音楽家を見つけることだ。
マケルヘラン「指揮する技術」第26章 音楽的でない雑務
第26章
音楽的でない雑務
経営者としての指揮者に関しては、長く退屈な一章、あるいはまるまる一冊を当てられよう。彼女 (あるいは彼) に、ただ音楽を演奏するだけでいることは不可能だ。世界的芸術家といえど、宣伝、組合、委員会、助成金、資金提供者その他、時間を喰うあまたのことどもに頭を悩ませねばならない。指揮者はその
あらゆる指揮者が心と壁とに刻むべき
それから
マケルヘラン「指揮する技術」第25章 コンサート
第25章
コンサート
ウォームアップ
どの楽器奏者も、自分の楽器、指、リード、アンブシュアをウォームアップするのは己れの責任だと見なしている。しかし
個々人のウォームアップに加え、可能であればオーケストラや
コンサート前のウォームアップは、アガっている人びとを落ち着かせ、倦んでいるか無気力な人を目覚めさせる機会にもなる。
暗譜での指揮
指揮者は、優れた演奏を披露するには曲のあらゆる面に徹底的に通じていなければならない。しかし、
暗譜で指揮する能力はゆっくりと養わねばならない。込みいった作品に手を出すのは、単純な作品を覚えられることが判ってからにせよ。
暗譜することを視野に入れながら
家で暗譜での指揮を練習する時は、自分への視覚的邪魔ものを設けよ。音楽家は、独りっきりで暗譜したあと、コンサートで何か、例えばトランペット奏者がお決まり通り
当該楽曲に関する知識が万全で、
現代の作品には危険が伴うが、指揮者がコープランド、ストラヴィンスキー、ブリテンらの
暗譜で指揮するもう一つの利点は、指揮者と演者との間に、
音楽の再創造
指揮者は、コンサートを始めるたびに、音による傑作を再創造しようとしているのだと自覚しなければならない。リハーサルにどんなに骨を折ってでも、演者に、あらゆる瞬間を偉大なものにしたいという願望を植え付けなければならない。確かに、力を抜いて一息つける
いくら興奮しても、演奏できないほど速いテンポは出すな。どんなに表現たっぷりでも、管楽器奏者の息が続かないほどにはなるな。チェロからはカンタービレな
コンサートの指揮
リハーサルを何度重ねようと、コンサートは別ものとなる運命だ。指揮者は、不測の事態に対して、つねに警戒を怠らず、また即座に反応しなければならない (毎晩同じ
興奮によって改善する楽曲もあれば、無気力さで台なしになる曲もある。バランスはひんぱんに交替する。たえず傾聴し、必要に応じて調節せよ。聴衆が入ると、ホールの音響は違ってくる。空っぽのホールでは、ホルンは音が
他の予期せぬ問題が持ち上がることもあり、それらは芸術性に関わるものだったり技術的なものだったりで、熟練度によらない。フルートが入りそこねたら、次の
ヴィオラが、いつもは
リハーサル中、ある楽章のテンポが直前の楽章と非常に近く単調だと突然気づいたら、目 (と耳) のウロコを落とし、予期せざる新たな美に震えながら、ゆったりと表現たっぷりにさらってみよ。
一週間ずっと氷柱の冷静沈着を保っていたソプラノのソリストが恐怖に震えていたら、微笑みと自信にあふれた
これらの情景は、演奏中、指揮者の頭をよぎる想念の多様さを示すものである。こうした状況下で考える速さを、他の職業との比較において知るのは興味深い。聴き、素早く考え、手、腕、表情で伝達する能力は優れた指揮者のしるしであり、演者を鍛えられる優れた音楽家とは対照をなす。指揮者は、芸術性、知識、繊細さを、考えて行動する速さと融合させ、指揮するたびに音楽を再創造する。
素早く考える能力はおそらく生得のものだが、練習によって向上することは疑いない。本書で述べたような指揮技術をほとんど本能の域に達する高さまで身につけ、指揮者の音楽的能力と
課題
初心者とプロへ
1. これから数か月、ときどき本書を読み返し、ここで推奨した実践事項から自分が外れてないか振り返ってみよ。外れていたら、そこを再考せよ。自分の直観が正しく、本書が間違っているのかもしれない。特定の状況では、規則から外れることが正当な場合もあろう。ぎゃくにそうでなければ、間違いを育てているかもしれないのだ!
2. 指揮せよ!
マケルヘラン「指揮する技術」第24章 前衛
第24章
前衛
より適切な名称を欠くために「
初めて「
以下、合唱団やオーケストラへの作品3つを例に、指揮者への新旧の課題を示そう。シュトックハウゼン「
ルーカス・フォス「
マウリシオ・カーゲル「
同じ音楽祭で、ジョン・ケージは自作「
他の作品には、複数の指揮者が必要なものもある。シュトックハウゼン「3つのオーケストラのための『
指揮者が「
課題
初心者とプロへ
1. 「
マケルヘラン「指揮する技術」第23章 打拍単位の変更
第23章
打拍単位 の変更
ここまで、リズムに関するあらゆる困難には、シンコペーションの場合にように
しかし、1913年のストラヴィンスキー「
下図の例について考えてみよう。
アレグロ・ヴィヴァーチェ

テンポが速いため、4分の4小節では四分音符を
ある思想学派は、
お奨めしたい方法は、タングルウッド [音楽祭] で、スタンリー・チャップルの下で教わったものである。かれはこの問題についてクーセヴィツキー、バーンスタイン、(自作曲にそうしたリズムが山盛りの) コープランド、そしてボストン交響楽団の団員たちと、たいへん長時間にわたって議論した。そこで合意されたのは、8分の3拍子は3拍
(これには重要な留保を付すべきである。速い
一連の速い8分の3小節を1小節1拍子で指揮したあとに4分の2拍子など四分音符2個が来る場合、4分の2拍子の小節は、2分音符1個に当たるゆったりした1拍ではなく、1小節2拍子に変更して四分音符を

四分音符から八分音符など、より速い単位へ移り、それを何小節か維持しなければならない場合、速い3拍子の連続は小うるさく、付点四分音符で

これらの場合はすべて、
次のような

これは、八分音符をぶっ通しで
←すばやく

7拍子は、同様に八分音符を最後に1個追加した4分の3拍子、あるいは八分音符が1個抜けた4分の4拍子と考えられる。4拍子パターンを用い、四分音符を3つ
←すばやく

同様のことは、次でも遵守されるべきである。

1・3小節目については上で論じた通りである。2小節目は2拍目を延長した4分の2拍子か、2拍目を短縮した4分の3拍子かのどちらかである。後者として考えるのが指揮向けだ。
4小節目は1拍目を延長した4分の3拍子か、2拍目を短縮した4分の4拍子になる。後者にせよ。
したがって、この
1小節目:前述の最終拍が短い4分の3拍子:

2小節目:2拍目が短い4分の3拍子:


↑すばやく
3小節目:前述の最終拍が短い4分の4拍子:

4小節目:2拍目が短い4分の4拍子:

↓すばやく

ほかの、不均等に分割された複雑な拍子記号も、同じように扱える。例えば、

以下のようになる:
↓すばやく

注意:

は、最終拍を短縮した4分の5拍子となる。
こうしたリズムに、初対面で困惑する人は多い。これらはジャズっぽく聞こえるが、まったく別ものである (伝統的ジャズでは、拍
著者には、学生たちがこうした類のリズムをうまくやってのけるのを観察する無数の機会があったが、そこで気づいたのは、
課題
初心者へ
1. 上記や類似の課題をやってみよ。ゆっくり、p.32で述べたように手を
2. アーロン・コープランド「
(注記:「
プロへ
1. 指揮せよ。


2. 本章で述べた問題について不安がなければ、ブリテン「
(注記:冒頭部の8分の6拍子の小節は2拍子で、8分の9拍子は通常短縮した4分の5拍子、8分の11拍子は短縮した2分の3拍子で取るのが最善である。)
注記:著者は、本章で示したような例題ではモデラートのテンポを念頭に置いている。一般には四分音符で130くらい。テンポがそうとう速ければ、替わりの方法を用いるべきである。八分音符を示すのが不可能であれば、四分音符や付点四分音符を
お気の毒さま、だれも肩など脱臼していませんように。
マケルヘラン「指揮する技術」第22章 ソロとレチタティーヴォ
第22章
ソロ とレチタティーヴォ
ソロ
音楽家どうしの地位が対等であれば、ソリストの意思を立てるのが習慣である。可能なかぎりソリストは己れの欲するところに従って演じ、オーケストラやコーラスはそれに従い、ピアニストがするように伴奏する。しかし、ある種の
ソリストは、指揮者より非常に若い場合、例えば合唱団員が短い
交響楽曲の中に重要なソロが入る場合、指揮者は主席奏者に、あたかも
☆ (巻末「第三版への追加と補説」を参照)
技術
ソリストに従って行くために最良の方法は、ギリギリまで待たないで
1. ソリストが予想より早く先へ進んだ場合は、
2. ソリストが、例えば「
レチタティーヴォ
技法
拍はすべて出すが、伴奏音が2

あらゆる楽曲と同様、はっきりした
1小節目 (

2小節目

ピアノだけの伴奏であれば、指揮者はおおかた益よりも害をなすため、身を引くべきである。歴史的により正しい方法である、一つ以上の低音楽器を鍵盤楽器とともに用いる場合は、ほとんどの人は指揮者がいた方が楽である。
オペラでのレチタティーヴォ
オペラでは、歌手が伴奏なしで何小節か
課題
初心者へ
1. ちょくちょく録音に合わせて指揮せよ。他の利得に加え、これはソリストに従って行くよい訓練になる。
2. できるかぎりソリストにピアノで伴奏し、己れの自在さと繊細さを養え。
3. 可能なかぎり、
4. さしあたり
プロへ
1. ヘンデルの