世界保健機構(WHO)「資源に乏しい状況での手動車いす供与の手引き」第4章

4 研修

 

・・・車いす供与に関わる職員の技能と知識を高めるために

 

 

研修ガイドライン

 

どんな研修プログラムを施すのがよいか、お奨めを提示し、

 

車いす供与に関わる職員の研修要件と推奨する教程内容を提案する。

 

 

コラム4.1 車いすは人生を変える...

 

南アフリカ車いすユーザーの証言

 

ケートリンは3歳、南アフリカケープタウンに住んでいる。ケートリンは脳性まひを患っており、歩くことができず、話すこともたいへん困難だ。彼女が2歳になるとき、ケートリンの理学療法士は両親に、特別な子ども用車いすを手に入れることを勧めた。当時、ケートリンは一日のほとんどを床に寝転がるか両親の腕の中で過ごしていた。彼女はとてもいらいらしていて怒りっぽく、またよく泣いた。両親はケープタウンの小さな車いすサービス所に紹介され、そこでケートリンは診断を受けた。サービス所が処方した車いすは、特別な座位支持インサートを備え、ケートリンの姿勢支持を助けるものだった。両親は、車いすへの支払いのために資金を募らねばならなかったので、彼女がちょうど2歳になったころ手に入った。

 

ケートリンの両親はいう、「ケートリンが新しい車いすに初めて座ったとき、驚いたことにあの子には、何をどうしたらいいか、すぐに分かったんです。それ以来、ケートリンがすっかり変わり、成長したことに気付きました。いらいらしなくなり、やる気があり、自立を楽しみ、車いすに乗って他の子を追い回すのが大好きで、外で過ごすのを心底楽しんでいます。車いすがケートリンと私たちに与えたのは、新たに見つかった未来への希望、そして限りなく普通な生活です。信じてもらえないかもしれませんが、2年もの間、私たちには家に子どもがいるってことに気付きませんでした。でもこの車いすで、私たちの王女様はやりたいことをやり、いつだっていたずらなんです。

 

ケートリンは車いすを手に入れてからというもの、前よりも幸せそうで活動的だ。彼女は身体的にも、よい発達を遂げている。彼女のセラピストの報告では、彼女の姿勢全般に改善がみられ、力強さを増し、体幹や頭部のコントロールも良くなっている。ケートリンの発話は改善し、姿勢や移動力の改善のおかげで、彼女は手話を学んでコミュニケーション手段の幅を広げている。

 

 

4.1 はじめに

 

目的および成果

研修ガイドラインの目的は、車いす供与に携わる職員の技能と知識を発展させることである。

 

研修ガイドラインの実施は、以下のことに貢献する;

車いす供与について訓練を受けた職員数の増大

車いすを供与する職員の能力向上

車いす供与の分野で訓練を受けてはたらく職員へのより権威ある認証

車いす供与の、リハビリテーションサービスへのより強力な統合

車いす供与研修プログラムの開発、実施および維持に関わる人びとの間の協働の増大

 

戦略

効果的な車いす供与に求められるのは、職員が適切な知識および技能を有することである。次に挙げるのは、研修する機会やきっかけを高めるのを助ける、いくつかの戦略である(1)。「職員研修」に関する国連標準規則が示しているが、国はあらゆる階層の職員に適切な研修を保証し、障がい者のための事業やサービスの計画および提供に加わる責任を負っている(2)。このことは、障がい者権利条約第4条によって確認されている(3)。

 

研修対象者を見出す

既存の保健やリハビリテーション職員を車いす供与に向けて訓練するのは容易である。研修受講者になりうるのは通常、地域保健医療職員、地域リハビリテーション職員、作業療法士理学療法士義肢装具士、地域の職人や技術者である。車いすユーザーは、対象者になり得るもう一つのグループである。専門的な訓練には欠けるかもしれないが、車いすユーザーはそのニーズを基本的に理解しており、モティベーションも高い。研究によれば、手動車いすユーザーに対する車いす技能研修は有効かつ安全で役に立つ(4)。

 

既存の研修事業や学校との連携

既存のリハビリテーション研修事業や学校と連携すれば、労力を節約できる。資源に乏しいところですでに実施されている多くの研修事業と連携でき、そこには地域リハビリテーション研修事業、中級リハビリテーション従事者研修事業、作業療法および理学療法学校、義肢装具訓練校などが含まれる。既存のリハビリテーション訓練校は、車いす供与に関する独立したプログラムを案出してもよく(専門的研修アプローチ)し(5)、のみならず車いす供与に関連するいくつかの教程を、既存の研修事業に組み込むこともできる(統合的研修アプローチ)。

 

コラム4.2

専門的および統合的な、車いすに関連する研修の例

 

専門的研修

タンザニア装具技士研修センターでの、1年間の車いす技士研修コースは専門的車いす研修の一例である。

他の例として、Mobility Indiaが提供する、車いすの処方と組み立てに関する3週間のコースがある。

 

統合的研修

バングラデシュ障がい者リハビリテーションセンター(Centre for the rehabilitation of the Paralysed, CRP)では、車いすサービスの研修は作業療法専攻学生のカリキュラムに統合されている。また、Mobility Indiaの車いすに関する3週間の教程は、その1年間にわたるリハビリテーション療法専攻学生の研修プログラムに統合されている。

 

 

モジュール型研修パッケージの開発

研修に要する時間と財政的資源を最小化するために、研修を、さまざまなレベルの研修モジュールとして開発し提供すること、および基礎的な車いすサービス直配から始めることを薦める。基礎レベルのモジュールを首尾よく修了すれば、職員は基礎的な車いすサービスを供与できるようになっているであろう。それに続く各々のレベルで、職員がだんだんと複雑なニーズをもつユーザーへ車いすを供与できるようにする。基礎および中級レベルに推奨される内容は4.3.節に示した。多くのユーザーが基礎的な車いす供与以上のものを求めていると考えられるところでは、研修プログラムの計画は、少なくとも一部の職員がなるべく速やかに中級レベルへと進むように組むことが望ましい。

 

研修パッケージに訓練員向け指導書および学習者向けワークブックが含まれれば、一定の研修を異なる訓練員が反復できる。こうしたパッケージは、各々の文脈に合うよう少し手を加えれば、複数の異なる場面での研修に対応するように開発できる。この手法は研修の計画や準備に要する時間を節約でき、よって必要な資源も節約できる。

 

訓練への認証をより確かなものとするやり方の追求

達成された技能を認証することは、研修を受ける職員への動機付けとして重要である。これはまた、車いす供給の重要性に対する自覚を高めるのを助ける。そういうわけで、研修コースの開発や運営に当たる方々には、これらのコースが公的に認証されるよう努力することを奨める。認証には国によるもの、保健医療やリハビリテーションの訓練を行う学校などの教育機関によるもの、国際的な協会や組織によるものなどがある。

 

研修を施す現地職員の技量向上

研修プログラムを地元で継続するばあい、地元の訓練員の質・量を充実させることが重要で(6)、また研修を効果的に行うためには、現場での実践経験が欠かせない。現地訓練員の質・量を充実させるには、以下のような戦略がある。

 

・研修プログラムを立ち上げるときに、訓練員になれる可能性をもつ、実力ある候補者を選んでおく。これらの人びとに車いす供与の基礎、それから現場実践のあと、さらに上級の車いす供与研修を授ける。数年の後には、これらの職員は他の人びとに車いす供与の基礎研修を授ける力を付けているだろう。この役割を担う人びとを支援するため「研修のやり方」の研修は有益である。

 

・現地訓練員が、継続してその技能を現場で実践するよう保証すること。これは、かれらが授けうる研修の質を高める。

 

現地訓練員がいないところには、研修の実施を支援する国際組織がある。(付録A参照)そうした研修の一例をコラム4.3.に示した。

 

コラム 4.3. Motivationによる「フィット・フォー・ライフ車いす処方研修パッケージ

Motivationは、資源に乏しいところで働く車いすサービス職員を対象とする研修コースを開発してきた。訓練員が違っても一定のものが授けられるよう、そのコースを文書化し「パッケージ化」してきた。研修パッケージには学習者へのワークブック、訓練員への指導書、ポスター大の視覚資料や学習評価法、ゲーム用カードなどの補助教材が含まれている。

 

架空のモデルをコースの始めから終わりまで活用し、幅広い様々な事例のシナリオを供することで、受講者の学びを深めている。

初版のパッケージでは、イラストにアジアのさまざまな国や地域の人びとが現れ、アジアの環境で幅広く使えるようデザインされていた。この外の地域では、イラストは修正するほうが適切だろう。

 

訓練員向け指導書は、コースの進め方の全般にわたる情報、および教程ごとの授業計画からなっている。各授業計画には時間とその教程に必要な資材、および各教程をどう教えるかについての、段階的な解説が収録されている。

 

このコースの開発には2年を要した。研修パッケージによってさまざまな指導員がコースを実施し、一定レベルの研修と学習者への評価が可能になった。この研修パッケージを他の組織も使うことから、指導員向け指導書と補助教材が発展した。

 

 

関係者および資源

研修計画の策定、実施、参加の関係者には、次のものが含まれる:

・保健や教育に責任をもつ国の役人、他の関連する部局や地方の役人

・技術や資金を提供する支援組織

・訓練員および受講者

 

研修ガイドラインを実施するのに要求される、重要な資源には以下のものがある:

・研修パッケージおよび研修資材

・インタラクティヴな理論講習、ワークショップための建物および実習のための臨床施設を具えた研修施設、および車いすの移動訓練のための場所

・最低限の要求水準を満たす車いすの確実な供給

車いす供与の経験がある訓練員

・教程に参加する気のある車いすユーザー

 

4.2 研修が求める到達水準

本節では、紹介・相談ネットワークの職員および車いすサービス事業所で管理、臨床、技術、訓練に直接関わる人びとへの研修が求める到達水準について述べる。これらのさまざまな役割については3.4節で、推奨するコース内容については4.3節で述べている。

 

4.2.1 紹介・相談ネットワーク

紹介・相談ネットワーク組織の職員(例えば保健・リハビリテーション職員やコミュニティ、地区、地域レベルで働くボランティア)への基礎研修は、紹介・相談ネットワークの効果をより高くする。理想的には、研修では紹介に携わる職員へ以下のことを組み合わせて伝授するのがよい。

・基礎となる知識と技能(全ての紹介・相談に当たる職員に状況を問わず関係するもの)、たとえば車いすサービス事業を紹介することで益される人を見出す能力や、コミュニティのだれが車いすユーザーを支援するのに最適か、への理解など。

・地域別の情報、たとえば地域の車いすサービスの運営についてよく知ること、地域で手に入る製品を認識することなど。

 

紹介・相談ネットワーク職員への研修実施には、さまざまなやり方がある。

車いすサービス事業所が「紹介・相談ネットワーク研修」を主催し、サービス事業所の臨床、技術、場合によっては訓練担当職員が運営する。こうした研修は、そのサービス事業所に対する紹介・相談ネットワークを強化し、のみならず紹介・相談者と車いすサービス事業職員との協働関係を強める機会を得る助けとなる。

・既存の保健・リハビリテーション従事者への研修で、全職員向けに車いすの紹介・相談の基本を含める選択肢もある。これが有益であるのは、これらのプログラムを経て、確実にすべての職員が車いすユーザーのニーズ、ユーザーの紹介・相談の仕方、コミュニティでのユーザーへの支援の仕方について意識を高めるからだ。研修では、車いすサービス事業の機能、事前評価、処方、ユーザーへの訓練やフォローアップの意義を押さえるべきである。

 

これらのアプローチのどちらも、研修の準備作業は、紹介・相談ネットワークの職員に要求される基礎知識を押さえ、地域別の情報も含め応用の手引きを含んだ研修パッケージの開発によって節約できる。

 

4.2.2 車いすサービス供与者の役割

 

管理業務

管理者に求められるのは、サービス事業管理、たとえば財政や人事の一般的な技能である。これらの技能は、なにも車いすサービス供与に特有のものではなく、管理業務を研修する機会はさまざまなところに存在する。一般的な事業管理の技能に加え、車いすサービス管理者に求められるのは、車いすサービス事業全般についてよく理解していることだ。そうした理解があって、管理者はサービス職員を支援し、車いすサービスを推進し、サービスの効果を評価できる。

車いすサービス管理者のための短期研修コースを受けられれば、車いすサービスの発展にとって財産となる。こうした研修には車いす供与、資金調達、紹介・相談ネットワークの開発および車いすサービス事業の評価といった要素が盛り込まれるべきだ。

 

臨床および技術

受講者の選定:研修を受ける志願者選びは、柔軟かつ既存のリハビリテーションや保健医療の人員構成に合致しているべきだ。理想的には、研修は、公的な参加資格のみによらず幅広い経歴の応募者に開かれているべきである。しかし、研修が認知されるには、適切な研修の規準に従うべきであろう。

 

可能な限り、参加条件は以下を考慮すべきである;

・候補者の、車いすユーザーと車いす供与に関わる現場での実践経験。

・これまでに受けた非公式の訓練。

・これまでに受けた公教育の水準。

・どんなものであれ、保健医療サービス供与の経験。

 

質の高い研修と支援があれば、さまざまな職業・臨床・技術の経歴をもつ職員にも、車いす供与に求められる任務を、ほとんどのユーザーに対して立派に果たすことができる。

コラム4.4では、想定される志願者について述べている。銘記しておくべきは、車いすサービス事業において技術職に要求されるのは、ユーザーと直接いっしょに働くことである。だから技術分野での研修を受けるよう選ばれた人は、技術的スキルのみならず、人びとと協働するスキルを持たねばならない。すべての候補者は、母語でのきちんとした読み書き能力が必要である。

 

 

コラム4.4. 専門的・臨床職・技術職の研修志願者

・地域リハビリテーションの職員およびボランティア

車いすサービス職員で、研修や学位を受けたことがない人

・有資格の看護師、理学療法士作業療法士、義肢・装具士、医師、その他の保健・リハビリテーション従事者

車いすユーザーで、他のユーザーと臨床職として働くことに関心がある人

 

 

臨床職は、医療、パラメディカルあるいはリハビリテーション専門職の資格があり、解剖学、生理学、さまざまな健康状態、リハビリテーションへのニーズ、および可能な対応についてよく知っているとなお良い。臨床職が車いすユーザーに注力する一方で、技術職は車いすにより力を注ぎ、適切なサイズと構成、組み立てや必要に応じた改造などを行う。

 

込み入ったニーズをもつユーザーへの車いす供与教程への志願者は、作業療法、物理療法、義肢・装具などの学位を持っていなければならない。ここでは、そうしたユーザーのニーズに応えるために求められる、深い知識が授けられる。あるいは、車いすサービス事業所で働く臨床あるいは技術職員のうち著しい能力を顕している人は、こうした研修を受けてよいだろう。

 

適性に基づいた研修

効果的な研修プログラムとは、臨床および技術職員が、その業務を安全かつ効果的に果たす上で求められる知識や技能の発達に焦点を絞ったものである。車いすサービス直配に携わる臨床および技術職員に求められる能力のリストは、関係者が賛成するならば、こうした職員への継続的な研修プログラムを開発する助けとなる。表4.2には、初級、中級、上級の3レベルで構成される能力についての一案をまとめた。

 

 

表4.2 車いす直接サービスにおける基礎、中級、上級レベルの臨床および技術的能力

 

供与サービス水準

臨床職

技術職

初級

ニーズが基本的な(改造や姿勢支持を要しない)ユーザーに、基本的なユーザーの事前評価、処方、フィッティングおよびフォローアップを実施できる。

車いすの改造や姿勢支持が必要なユーザーを見極めて紹介・相談ができ、車いすが支給された後は、そのフォローアップができる。

紹介・相談ネットワークの人びとに対して、基礎的な車いす供与研修を実施できる。

各ユーザーの記録(対象者ファイル)を管理できる。

ニーズが基本的なユーザーとの、チームによる事前評価、処方、フィッティング、フォローアップに参加できる。

手動車いすを、製造者の指示および処方された構成に従い組み立てられる(改造は除く)。

車いすの改造や姿勢支持を、ものによっては監督者の指導にしたがって実施できる。

中級

基本的な車いす、改造した車いす、姿勢支持を加えた車いすが必要なユーザーの事前評価、処方、フィッティングおよびフォローアップを実施できる。

複雑な姿勢保持が必要なユーザーを見極めることができ、車いすが支給された後は、そのフォローアップができる。

紹介・相談ネットワークの人びとに対して、車いす供与研修を実施できる。

基本的な車いす供与に携わる臨床職員の訓練、監督、支援ができる。

各ユーザーの記録(対象者ファイル)を管理できる。

基本的な車いす、改造した車いす、姿勢支持を加えた車いすが必要なユーザーとの、チームによる事前評価、処方、フィッティング、フォローアップに参加できる。

手動車いすの、処方されたニーズに合わせた改造をデザイン、製造し、組み付けることも含めた、組み立てよび製作ができる。

紹介・相談ネットワークの人びとに対して、基礎的な車いす供与研修を実施できる。

基本的な車いす供与に携わる技術職員の訓練、監督、支援ができる。

上級

もっとも困難なニーズを抱えた人も含め、あらゆるユーザーへの車いす供与サービスチームを率いることができる。

記録の管理、サービスの向上や能力的に劣る職員のへの助言監督など、より高い専門性を持って働くことができる。

あらゆるレベルの車いすサービス事業の臨床職員に対する、研修の開発と実施ができる。

独立して、あるいは車いすサービスチームの一員として、ユーザーのニーズへの総合的な事前評価を実施できる。

もっとも困難なニーズを抱えた人も含め、あらゆるユーザーに対して適切な製品を見定め、あるいは個別に製品を設計し製作できる。

記録の管理、R&D、品質管理、サービス工房および技術者への助言監督など、より高い専門性を持って働くことができる。

あらゆるレベルの車いすサービス事業の臨床職員に対する、研修の開発と実施ができる。

 

4.2.3 指導者

研修プログラムの開発

車いすサービス直配で働く指導者に求められるのは、さまざまな障害や慢性疾患の知識である。かれらは、車いすを使うことはだれに益があるのか、どんな種類の車いすがどんな人に最適なのかを分かっている必要がある。また、二次障がいや二次疾患をどうやって防ぐのか、はっきり理解していること、また障がい一般と環境要因に関する幅広い理解が求められる。また指導者には、車いすを使いこなす技能、効果的なコミュニケーションと訓練、障がい者の人権に対する知識も必要である。

 

車いすユーザーと研修の実施

積極的な車いすユーザーは、ユーザー本人ができるところをやってみせることで、車いすの移動技術や移乗を効果的に教えられる。また車いすユーザーは受講者に、初めて車いすを手にしたときどうだったか、訓練や指導でなにがいちばん役に立ったか、あるいはなにがあればいちばん良かったと思うか、語ることができる。

 

 

コラム4.5. アフリカでの車いすサービス直配研修

アブドゥッラー・ムニシュは、2000年に交通事故で脊椎を損傷した。かれはタンザニア連合共和国キリマンジャロキリスト教医療センターに8か月近くも入院した。それは、自分が二度と歩けなくなったということを悟る、フラストレーションに満ちた時間であった。かれには、それはほとんど世界の終わりと同じだった。かれは、セラピストから車いす技術者になる研修を受ける機会があることを聞いた。それは、かれの希望の光となった。セラピストや支援者の協力で、かれはタンザニア整形外科技術者研修センター(TATCOT)で、一年間の「車いす技術者研修コース」に加わった。

 

このコースは国際義肢装具学会が認定し、教程は車いすの製造技術のみならず、解剖学、さまざまな障害の生理学、製図、ワークショップの運営や障がい学にわたっている。これにより、アブドゥッラーは製造技術の研鑽を積むと同時に人びとへの事前評価の仕方や適正な車いすの処方、のみならず小規模事業を営むのに不可欠な管理技能を学ぶことができた。

 

アブドゥッラーは研修についてこう語る。「車いす作りと供給について、こんなにたくさん勉強するとは思ってなかったなあ。いまは質のいい車いすを作れるようになったし、車いすが使う人に合ってるかどうかも確かめられる。勉強するほど車いすの供給がどんなに込み入った問題なのかよく分かるようになるし、だからいつも腕を上げて知識を増やさなきゃ、ってことが分かるんだ。姿勢支持にはもっと知識が必要だし、設計やサービスの方も常に良くして行かないと。」

 

アブドゥッラーは2001年に研修を修了し、車いす技術者としてキリマンジャロキリスト教医療センターに就職した。かれの最初の挑戦は病院に車いす工房を立ち上げることで、完成に一年近くを要した。以来、かれと同僚たちは適正な車いすを製造し、キリマンジャロ地域に住む人びとにサービスを提供している。アブドゥッラーは車いす技能と障がい学を、TATCOTおよび作業療法専門学校の学生に講じている。キリマンジャロ脊椎損傷者協会で、かれは他のメンバーをピアトレーナーとして訓練している。アブドゥッラーはまた、発展途上国のための車いす設計に関する、米国マサチューセッツ工科大学の客員講師でもある。

 

 

4.3 研修コース教程と内容

 

4.3.1 研修コース教程

ニーズおよび利用可能な資源を考慮して、このガイドラインは初級および中級レベルの職員研修のみに絞っている。これら2レベルの車いすサービスに携わる職員のための研修コース教程案の概要は、表4.3.にまとめた。訓練、臨床、技術各職の教程は初級・中級の連続した2レベルで構成されている。研修を教程として実施する必要はないが、同じ研修教程を同時に2つ以上のグループに対して実施するのが効率的であろう。

 

 

 

表4.3. 車いすサービスが果たす各職務に関する、初級・中級レベルの研修教程案

 

 

 

 

職務

 

 

レベル

紹介・相談ネットワーク

管理

訓練

臨床

技術

初級

1. 紹介者のための車いすユーザー、車いすおよびサービス

2. 管理者のための車いすユーザー、車いすおよびサービス

3. 車いすユーザー、車いすおよびサービス - 1

 

 

 

 

4. 臨床職員のための車いすサービス-1

5. 技術職員のための車いすサービス

 

 

 

 

6. ヘルスケア-1

 

 

 

 

7. 訓練技法

 

 

 

 

8. ユーザー訓練 – 1

 

中級

 

 

9. ユーザー訓練 – 2

 

 

 

 

 

10. 保健医療-2

 

 

 

 

 

11. 車いすユーザー、車いすおよびサービス - 2

 

 

 

 

12. 臨床職員のための車いすサービス- 2

13. 車いす製作技術

 

 

4.3.2 研修コース内容

研修コース教程の内容として推奨するものを、以下に記した。

別々の教程について同じ内容を述べている場合もあるが、それぞれの教程がカバーする範囲は各職務のニーズによって変わってくる。

 

中級レベルの受講できるのは、初級レベルを修了したか、そのレベルで十分な能力を発揮できている人である。推奨した研修コース内容は、絶対のものというより、研修パッケージやプログラムの開発に関わる人へのガイドとなることを意図している。教程および内容を必ずしも表4.3や下リストの順番どおりに実施する必要はない。

 

一般的な管理業務の研修(たとえば人事や予算管理)および工房づくりの一般的な研修(たとえば工具や工作機械、工房の作業安全、品質管理や在庫管理)は教程に含めていない。

 

教程1 紹介・相談者のための車いすユーザー、車いす車いすサービス

推奨内容:車いすユーザー、車いす、障がい、車いすに関連する健康問題、車いすサービス供与概論、受講者の地域における車いす供与

 

教程2 管理者のための車いすユーザー、車いす車いすサービス

推奨内容:車いすユーザーのニーズ、車いす車いすサービスの概要、車いすサービスの費用と資金調達、車いすサービスの人材と設備、車いすサービスの振興、サービスの監査と評価、ウェイティングリストの管理

 

教程3 車いすユーザー、車いす車いすサービス-1

推奨内容:車いすユーザー序論、障がい、姿勢、車いす序論、クッション序論、車いす移動序論、紹介・相談ネットワーク、事前評価・処方・調整・ユーザー訓練序論、フォローアップ、補修と維持管理、サービス評価序論

 

教程4 臨床職のための車いすサービス-1

推奨内容:さまざまな姿勢の良い面と危険、事前評価および処方、フィッティング、フォローアップ、品質チェック、サービスへの評価

 

教程5 技術職のための車いすサービス

推奨内容:さまざまな姿勢の良い面と危険、事前評価および処方、フィッティング、フォローアップ、品質チェック、サービスへの評価

 

教程6 ヘルスケア-1

推奨内容:衛生および褥創予防に絞った保健医療の項目

 

教程7 訓練技術

推奨内容:プレゼンテーション技法

 

教程8 車いすユーザー訓練-1

推奨内容:車いす移動・移乗初級、健康の自己管理、車いすの取扱いおよび維持管理、使用環境への適合

 

教程9 車いすユーザー訓練-2

推奨内容:車いす移動・移乗中級

 

教程10 ヘルスケア-2

推奨内容:ケア、管理、リハビリテーションに絞った保健医療の項目

 

教程11 車いすユーザー、車いす車いすサービス-2

推奨内容:車いすユーザー、障がい、人体解剖学、普通の・異常な姿勢、車いすの種類と構成、車いすクッション、車いす移動、紹介・相談ネットワーク、紹介・相談者への研修、サービス評価方法論

 

教程12 臨床職のための車いすサービス-2

推奨内容:クッションの処方、クッションの性能評価、地域の紹介・相談ネットワーク、臨床職のための事前評価・処方・フィッティング・ユーザー訓練・フォローアップ中級、臨床職員への支援と監督、臨床サービス評価のまとめ方

 

教程13 車いす製作技術

推奨内容:車いすのデザイン、クッションの改造、基本的な圧力緩和クッションの構造、車いすの修理と改造、姿勢支持部の製作、技術職のための事前評価・処方・フィッティング・ユーザー訓練・フォローアップ中級、工房の管理、技術サービス評価のまとめ方

 

 

まとめ

 

車いすを効果的に供与するには、車いす供与に関する知識と技能を備えた職員が必要です。

・研修機会の開発と取り組みに際しては、

 - 適切な研修参加者選びに時間をかけ、

 - 可能ならば障がい者、とくに車いすユーザーを優先し

 - 既存のリハビリテーション研修と連携する可能性を追求し、

 - 教程および研修パッケージを共通および分野別の研修について開発し、

 ― 研修が広く知られるようになる道を探り、

 - 地域の訓練員の能力を高める、

 ようにします。

・紹介・相談ネットワークの人びと、および車いすサービス事業の管理、臨床、技術、訓練の各職には、それぞれ違った研修が必要です。

 

 

参考文献

 

  1. gyundi ye, cornick c. training: formal training; tatcot/motivation. In: sheldon s, Jacobs na, eds. Report of a Consensus Conference on Wheelchairs for Developing Countries, Bangalore, India, 6?11 November 2006. copenhagen, International society for prosthetics and orthotics, 2007 (http://homepage.mac.com/eaglesmoon/wheelchaircc/wheelchairreport_Jan08.pdf,
  2. The Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities. Rule 19. Personnel training. new york, united nations, 1993 (http://www.un.org/esa/socdev/enable/dissre05.htm#rule%2019, accessed 11 march  2008).
  3. Convention on the Rights of Persons with Disabilities. Article 4 ? General obligations. new york, united nations (http://www. un.org/disabilities/default.asp?id=264, accessed 11 march 2008).
  4. best Kl et al. wheelchair skills training for community-based manual wheelchair users: a randomized controlled trial. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 2005, 86:2316?2323.
  5. Certificate Course in Wheelchair Technology. moshi, tanzania training centre for orthopaedic technologists, 2007 (http://www. tatcot.org/certificate%20wch.htm, accessed 11 march 2008).
  6. sheldon s, Jacobs na, eds. Report of a Consensus Conference on Wheelchairs for Developing Countries, Bangalore, India, 6?11 November 2006. copenhagen, International society for prosthetics and orthotics, 2007 (http://homepage.mac.com/ eaglesmoon/wheelchaircc/wheelchairreport_Jan08.pdf, accessed 8 march 2008).

世界保健機構(WHO)「資源に乏しい状況での手動車いす供与の手引き」第1章

1 はじめに

 

・・・自力での移動性、そして生活の質を高めるために

 

この導入の章では、

 

・適正な車いすとはなにか定義し、

車いすユーザーとはどんな人たちなのか紹介し、

車いすの需要と、それをもつ権利について示し、

車いすがどんなよいことをもたらすのか説明し、

車いすの基本的な分類と、供与する仕組みについて説明し、

車いす供与に関係するさまざまな人びとと、各々の役割について述べる。

 

 

車いすは生活の質を高める... 

 

コラム1.1 アフガニスタン車いすユーザーからの証言

 

ザヒーダはアフガニスタンで、彼女の兄弟の敷地でテントに住んでいる。2001年に対麻痺(両脚の麻痺)になったが、それから二人の子をもうけた。ジャララバード市にある病院の理学療法科外来を紹介されて、そこへ手押し車に載ってやって来た。理学療法士は地元の車いす工房の技術者から協力を得、ザヒーダに三輪車いすを供与した。

 

車いすがなければ、夫や子どもたちの助けなしに、ザヒーダが家でできることはほとんどなく、ただベッドで寝ているだけだ。車いすを得て、でこぼこで山だらけの土地でも、子どもたちの世話だってやってのけるようになった。「車いす——自分の足みたいなもんだ——なしじゃ、どこにだって行けやしない!車いすがありゃあ、料理もできればパンも焼けるし、お隣さんへ遊びにも行ける。村で親類の婚礼がある時にゃ、車いすをタクシーの後ろに乗っけて行くのさ。坂が急な所じゃ、大きい娘や息子が押して助けてくれるんだ。」

 

 

1.1 適正な車いす

本書は、「適正な手動車いす」に焦点を絞って論じる。「手動車いす」とは、「車いすユーザー本人、あるいは他の人が押して推進する車いす」と定義しておく。「車いすが適正である」とは、

 

車いすユーザーのニーズや取り巻く環境条件に合っている

・適正な調整や姿勢支持が加えられている

・安全で耐久性がある

・その国内で手に入る

・国内で手ごろな費用で、手に入れ、維持管理や継続的なサービスを受けられる

 

場合をいう。

 

本書全体を通して、「車いす」は、とくに断らないかぎり「適正な手動車いす」を指す。

 

 

1.2 車いすユーザー

 

本書での「車いすユーザー」とは、すでに車いすを使っており、または歩く能力が限られているため、車いすを使うと益するところがある人びとを指す。そこには、

 

・子ども、大人、お年寄り、

・男女あるいは少年少女、

・さまざまな神経・筋肉・骨格の障がい、生活スタイル、生活で果たしている役割、社会・経済的な役柄をもつ人びと、

・さまざまな環境のもとで生活する人びと(たとえば農村、片田舎、都市)

 

が含まれる。

 

車いすユーザーが抱く移動へのニーズは多種多様だが、共通して車いすに求めるのは、自分じしんの尊厳をもって移動する能力を高めることである。

 

 

1.3 車いすの必要

 

世界人口の約10%、およそ6.5億人は障がい者である。さまざまな研究が示していることだが、その約10%が車いすを必要としている。つまり全人口の約1%、あるいは障がい者人口の10%が車いすを求めていると推定され、それは全世界で6500万人に上る。

 

2003年の推計によると、そのうち2000万人が、移動のために車いすが必要であるにもかかわらず、まったく持っていない。また、車いすが必要な人びとのうち、じっさいに得る機会に与るのはほんの少数であり、さらに、その中で適正な車いすを得られる人はほとんどいないこともわかっている。

 

 

1.4 車いすへの権利

 

国連「障がい者の権利条約」締約国は、「障害者ができる限り自立して移動することを容易にすることを確保するための効果的な措置をとる」(第20条)責務を負っている。これは、車いすなどの移動力支援を供与し、移動の自立を実現する、という公約である。1993年の国連総会決議「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」も、同じ公約をうたっており、各国に対して、障がい者の自立と人権の実現を高めるべく、かれらに対する補助具の開発・製造・流通・サービスの確保を求めている。

 

この二つの重要な世界宣言が車いすへの権利を生み出したといえよう。適正な車いすは、人権をひとしく享受する機会を得、インクルージョンと参加を確かなものとする前提条件であることは、世界の共通認識となっている。自力移動は社会生活の多くの分野に参加するために欠かせない要求であり、車いすは多くの人にとって、移動の自立を保証する最良の手段なのである。

 

自立した移動ができてこそ、障がい者も学び、働き、文化生活に加わり、ヘルスケアを利用できる。車いすがなければ障がい者は家に閉じ込められ、共生のなかで人生を全うすることは不可能であろう。世界から貧困を根絶するためには、障がいを持つ人びとのニーズを考慮しなければならないことを、われわれは知っている。車いすなしに、こうした人びとは国連ミレニアム開発目標や貧困削減戦略などの国家開発イニシアティブが具現する、貧困者を対象とした開発への取り組みや計画、戦略の大勢には参加できないのだ。

 

悪循環とはこうである;移動の自立への支援がなければ、障がい者は貧困の罠を脱することができない。かれらはより確実に二次障がいが増悪し、さらに障がいが重くなるうえ、いっそう貧しくなる。それが子どもであれば、教育機会へのアクセスを失い、教育を受けていないことで成長しても仕事の口がなく、さらに深く貧困の淵に沈んで行く。

 

いっぽう、適正な車いすが手に入れば、障がい者は働き、貧困を減らすための開発イニシアティブの大勢にも加われる。同じく、車いすによって子どもは通学ができ、教育を得、長じては仕事に就くことができる。

 

図1.1 働く車いすユーザー

 

図1.2 学校での車いすユーザー

 

車いすへの権利は、障がい者へ人権を保障する、あらゆる国際的な取り組みにおいて不可欠な構成要素となるべきだ。

 

 

1.5 車いすがもたらすよいこと

 

車いすがもたらすものは、いち工業製品にすぎない車いすそれ自体にとどまらない(6)。むしろ、障がいを抱える人びとが移動でき、健康でいられ、社会生活のあらゆることに参加できるようになることが重要である。車いすは自立や社会的つながりの増大を加速する触媒ではあっても、それ自体が目的ではない(6–8) (図1.3参照)。

 

図.1.3. 社会生活への参加

 

適正な車いすの使用がもたらすよいことには、以下のようなものがある。

 

健康および質の高い生活

移動力をもたらすことに加え、適正な車いすは、車いすユーザーの身体的健康や生活の質に裨益する。車いすユーザーの適切な訓練と組み合わせることで、適正な車いすは、起こりがちな問題、たとえば褥瘡、身体変形や拘縮の進行その他の二次障がいを抑えるのに役立つ (9)。車いすは適切なクッションを備えることで、脊髄損傷や同様の状態に置かれた人びとの早期死亡を、しばしば予防する。つまり、ある意味こうした人びとにとっては救命具ともいえるのだ。機能的かつ快適で、効率よく動かせる車いすは、結果として活動の水準を引き上げる。移動において自立し、身体機能が向上すれば、他者への依存を減らせる。他のよいこと、たとえば呼吸や消化の改善、頭や体幹、上肢のコントロールおよび全体的な安定の向上を、適切な姿勢保持がもたらす。健康維持は、生活の質を測る重要な要素の一つである。以上の要素が相まって、教育機会へのアクセス、雇用、家庭や地域生活への参加の増大に貢献する。

 

経済

車いすはしばしば、消極的な受益者と積極的な貢献者の間の、違いのすべてを生む。経済的な便益が実現されるのは、車いすユーザーが教育や雇用の機会へアクセスできる時だ。車いすがあれば一人で生計を立てられ、家計収入や国家歳入に貢献できる一方、車いすがなければ、人は孤立したままで、家族や、大きくいえば国家の重荷となる。同様に、耐久性に欠ける車いすは、ひんぱんな修理、欠勤、時には車いすの交換が必要になり高くつく。車いすは長持ちすればするほど、費用対効果はより高くなる (10)。また車いすユーザーがじぶんの機器選びに参加し、かれらの長期的なニーズが考慮される場合も、費用対効果は高まる (11)。

社会にとって、車いすの供与にともなう財政的便益には、たとえば褥瘡の治療や身体変形の矯正などに対する、保健医療支出の削減が含まれる。1997年に発表された発展途上国での研究によれば、脊椎損傷を負って入院した人の75%が、18~24か月のうちに、その損傷からの二次障害によって亡くなっている。同じ研究では、保健医療トレーニングの改善や、よい車いすやクッションを含む適正な機器の結果、2年以内に褥瘡の発生が71%、反復性尿路感染が61%減少している (12)。

 

 

1.6 車いすユーザーが抱える困難

車いすユーザーはさまざまな困難に直面するが、車いす供与の取り組みを発展させる上では、これらについてよく考える必要がある。

 

財政的障壁

世界の障がい者のおよそ80%は、低所得国で暮らしている。その大半は貧しく、リハビリテーション施設を含む基礎的なサービスにもアクセスできない (13)。国際労働機関(ILO)の報告では、多くの発展途上国障がい者の失業率は、推計で80%以上に達する (14)。政府からの車いす供与への資金を利用できることはまれで、車いすユーザーの大半が、自力では車いすにお金を払えないまま、放って置かれている。

 

物理的障壁

多くの車いすユーザーは貧しいため、周りへのアクセスも悪い場所の、小さな家や小屋で暮らしている。かれらが暮らしているところは、道路網が劣悪で舗装もされておらず、気候や地形もしばしば険しい。さまざまな理由で、公的あるいは私的な建物は、車いすには近づきがたいものだ。こうした物理的な障壁は、車いすに一層の堅牢さや耐久性を要求する。これらはまた、車いすユーザーにも高度な移動技術の修練を要求する。

 

リハビリテーションサービスへのアクセス

多くの発展途上国で、リハビリテーションサービスを受ける必要のある障がい者のうち、アクセスできるのはわずか3%にすぎない (15)。国連特別報告者のレポートでは (16)、62か国には障がい者が利用できる、国のリハビリテーションサービスが存在しない。これは、多くの車いすユーザーが二次障がいを増悪させ、適切なリハビリテーションサービスがあれば避けられる、早期死亡のリスクに曝されているということだ。多くの国で、車いすサービス直配は、政府のリハビリテーション計画に含まれていない。

 

教育と情報

多くの車いすユーザーは、適切な情報を入手する上での困難を抱えている。たとえば自分自身の健康状態、二次障がいの予防、利用できるリハビリテーションサービス、入手できる車いすの種類などである。多くの障がい者にとり車いすサービスは、あらゆるリハビリテーションサービスのうち最初に触れるものだ。このことは、車いすユーザーへの教育の重要性を、さらに強めるものである。

 

選択

車いすユーザーが、もっとも適正な車いすを選ぶ機会に恵まれることはまれである。手に入る車いすが一種類だけ、ということもしばしばで(えてして、サイズも一つか二つしかない)、これでは車いすユーザーの身体的ニーズには適合せず、車いすユーザーの生活スタイルや家や仕事環境からみて実用的にもならない。障がい者の権利条約[第20条]によれば、「締約国は、障害者ができる限り自立して移動することを容易にすることを確保するための効果的な措置をとる・・・障害者が、自ら選択する方法で、自ら選択する時に、かつ、妥当な費用で個人的に移動することを容易にすること」。

 

 

1.7 車いすの供与 

車いすの供与」に通常含まれるのは、車いすのデザイン、製造、供給および車いすサービス直配である。 

 

図1.4. 車いすの供与

 

デザイン

 >製造

  >配給

   >サービス直配

 

車いすの供与によって車いすユーザーの生活の質が向上するのは、そのすべての過程がうまく働く場合に限られる。これには、車いすユーザーに以下へのアクセスを確保することが含まれる;

・適正に設計された車いす

・適正な規準にしたがって製造した車いす

車いすおよび交換用部品の確実な供給

車いすサービス、すなわち車いすの選択や個別調整における車いすユーザーへの支援、使い方や維持管理に関する訓練、フォローアップや修理サービスの保証。

 

車いす供与の各領域に関わる人は、正確な技能と知識を持っている必要がある。これは、車いす供与に関わる人びとへの訓練が欠かせないことを意味する。

 

車いすの設計は、多くの要因のために違ってくる。例えば、

車いすユーザーの身体的ニーズ

車いすの使い方や使用環境

車いすを製造し、使用する上で利用できる素材や技術

 

車いすは国内でも国外でも製造されうる。外国製の車いすはえてして、大量生産品が新品あるいは中古品として輸入される。車いすは製造者や代理店、販売店あるいは車いす供給の専門機関が、車いすサービス供与者へ供給する。

 

設計や製造、供給に関する情報は、第2章を参照。

 

車いすの適正に供与することは、移動のために車いすを必要とする人びとのリハビリテーションを成功させる上で、たいへん重要である。しかし歴史をみると、車いすサービス直配がリハビリテーションサービスの不可分な一部とされたことはない。これにはさまざまな原因があり、たとえば貧弱な認識、資源の不足、適正な製品の欠如、保健やリハビリテーションに携わる人材への、車いすサービス直配に関する研修の欠如などである。

多くの国で、車いすユーザーには、慈善や外部からの寄付が頼りである。寄付品の車いすはえてして、適正でなかったり質が悪く、長い目で見ると、車いすユーザーやかれらの国に、より大きな問題を引き起こす。車いすユーザーは、慈善に良い品質を要求できる立場にない。インドでの研究が明らかにしたのは、寄付品の車いすをもらった車いすユーザーの60%が使うのをやめたことで、それは不快だったり、車いすの設計が使用環境に適合していないことによる (18)。

その結果、多くの人びとが車いすを必要としながらまったく得られず、いっぽう、得られても事前評価や処方、調整やフォローアップを受けられない、といったことになる。多くの車いすユーザーに、脊椎損傷を被っている人にさえ、しばしばクッションのない車いすが基礎的な指導抜きに与えられるが、それは褥瘡、あるいは若年性死亡すら引き起こす。

とはいえ、車いすに関する個別の事前評価や調整、使い方に関する訓練を行うことの重要性に対する認識も高まりつつある。多くの資源に乏しい状況で、さまざまなサービス直配のモデルを活用した車いすサービス事業が確立されてきた。

そうしたモデルにはセンター中心型、地域中心型、訪問サービス型、移動式「キャンプ」型サービスや輸入車いすの寄付型などがある。車いすユーザーのグループが豊富な情報を持ち、サービス供与者が必要な知識をもって支援を行なっている国では、車いすサービス事業は既存のリハビリテーション活動に統合されつつある。それらに共通の目標は、車いすユーザーが熟練者による援助を受け、ニーズにもっとも適した車いすを選べるよう保証することである。

車いすサービス事業に関する情報は、第3章を参照。

 

資源に乏しい状況では、訓練の機会が限られる結果、車いすその他の支援機器の供与を担える人は非常に少ない。車いすを選んだり取得する手伝いのできる訓練された人材が少ないことは、社会参加への妨げである (19)。

既存の保健医療やリハビリテーション専門家の教程では、車いすサービス直配や関連する項目については、ほとんど教わらない。いくつかの内容について、政府職員が専門家から非公式の研修を受けることはあるかもしれない。しかしそうした研修は、えてしてその国で入手できる製品や、講師じしんの経験や能力に限定される。もしその研修が記録されなければ反復されることもなく、その成果であるスキルの水準も測りえない。いざその講師やほんらいの車いすユーザーがサービス所を去ってしまうと、地元の職員には、この種の非公式な研修から得たスキルを継続して修練するのは困難になる。

形式を備えた研修を行わないと、結果として、車いすを供与する専門的スキルが認知されることもない。そこで、これらのニーズに応えるため、開発機関がいくつかの取り組みを行ってきた。

研修に関する詳しい情報は、第4章を参照。

 

 

1.8 車いすの種類

 

ただ一つの種類やサイズの車いすが、あらゆる車いすユーザーのニーズに応えることはありえず、また車いすユーザーの多様さがさまざまな種類の車いすへのニーズを生む。車いすを選ぶ者は、車いすユーザーとの相談を通して、対象ユーザーの身体的ニーズ、およびそのユーザーが車いすをどう使うつもりなのか理解し、のみならず、車いすのさまざまな設計についてその理由を知っていなければならない。

車いすの、車いすユーザーの身体的ニーズに合うよう適合したり個別調整できる幅は、車いすの種類によってちがう。車いすは多くの場合、最低でも多少のサイズ選択ができ、いくつかの基本的な調整はできるようになっている。

一時的な使用のために設計された車いす(例えば、病院で患者を病棟から病棟へ移送するために使うもの)は、車いすユーザーにぴったりフィットして姿勢を支持したり圧力を緩和するようには設計されていない。整形外科あるいは「病院用」車いすが、この種類のよい例である(図1.5.)。

 

図1.5. 一時的ユーザーのための車いす 

 

図1.6. 長期間使用するユーザーのための車いす 

 

図1.7. 姿勢支持が必要なユーザーのための車いす

 

長期間使用する車いすユーザーにとり、車いすはきちんとフィットして姿勢を支持したり圧力を緩和するものでなければならない(図1.6.)。シートの横幅や奥行きに調整の余地があり、少なくともフットレストや背もたれの高さを調節できることが、車いすを正しくフィットさせる上で重要である。その他の一般的な調節やオプションには、クッションの種類、姿勢支持、調節可能な車輪位置などがある。

 

幅広い調節が可能、あるいは個別に改造した車いすは、長期的ユーザーで姿勢に関する個別ニーズがある人のために設計されている(図1.7.)。そうした車いすの多くには、そのユーザーを支持するために取り付ける追加部品がある。

 

車いすの使われ方

車いすの設計は、車いすユーザーが安全かつ効果的に、車いすを住まい、あるいは働く環境で使うことができるようさまざまである。

 

おもに屋外の凸凹なところで使う車いすは、頑丈で安定しており、凸凹な地面を乗り越えて進めるものでなければならない。図1.8.は、屋外用に適した三輪車いすの例である。対照的に、屋内の滑らかな面上で使う車いすには、屋内の狭いスペースでの取り回しの容易さが求められる。

 

図1.8. 屋外用に適した車いす

 

図1.9. 屋内・屋外兼用に適した車いす 

 

車いすユーザーの多くは、さまざまな状況で住まい、働いているため、しばしば妥協も必要になる。図1.9.は頑丈な車いすホイールベースは比較的短いがキャスター径が大きいものである。この車いすであれば、屋内でも屋外でも使える。

 

車いすユーザーは、車いすを容易に乗り降りでき、効率よく推し進め、また修理できることを求められる。車いすユーザーは、例えばバスや車で自分の車いすを運ばねばならないこともある(図1.10.)。さまざまな設計の車いすで、いろいろなやり方でコンパクトにできるものがある。クロスパイプ折りたたみ式のもの(図1.10.)もあれば、クイックリリース車輪を備えたもの(図1.11、図1.12.)や、背もたれを前に折りたためるものもある。

 

図1.10. 折りたたみ式車いす 

 

図1.11. クイックリリース車輪 

 

図1.12. 取り外し式の車輪 

 

 

これらのニーズや、対応する車いすの設計上の特色は、第2章で論じる。

 

使用可能な素材と技術 

車いすの設計は、製造したり修理する上で使用できる素材と技術しだいで変わる。たとえば、車いす設計者は初期故障を避けるために、使用できる素材の強度と可変性とを考慮しなければならない。故障した場合も、車いすは簡単に修理できるものであるべきだ (20)。このトピックに関する詳しい情報は第2章を参照。

 

 

1.9 関係する人びととその役割

 

1.9.1 政策立案者と実施者

 

政策の立案者および実施者は、車いす供与における計画、立ち上げ、実施中の財政、助言、制度面での支援に、直接関わる。政策立案者の役割には、以下のようなものがある。

 

障がい者に最大限に自立した自力移動を保証するための効果的な施策を目的とする、他の関係者との協議を通した車いす供与政策の開発。そこには以下のことがらが含まれる;

 #好みの方法で好みの時に、手ごろな費用で行える自立した移動の促進

 #手ごろな費用で手に入るようにするなど、車いすへのアクセス

 #障害者やリハビリテーション従事者への、移動技能に関する訓練の実施

 #車いすその他の移動補助具を製造する、国内事業者への支援

車いすの製造、サービス直配、訓練に関する規準を採用、承認、実施する。

車いす供与がだれにでもーー女性や子ども、最貧困者や遠隔地の人びとに対しても、公平に行われアクセスできるよう、保証する施策を講じる。

車いすサービス事業が、保健医療の不可分な一部を構成し、関連するサービス、たとえば義肢、装具、地域リハビリテーションなどのサービスと連携するよう発展させる。

車いす供与に対する、持続可能な資金調達政策を開発する。

車いすユーザーのグループや障がい者団体を、計画から実施までのあらゆる段階に参画させる。

 

国際連合の基準規則および条約によれば、車いすを手ごろな費用で手に入るようにするのは、第一に国の責任である。国内で車いすサービスを受けられるよう保証するには、必ずしも政府が直接サービスを提供する必要はない。しかし政府にはNGOや国際NGO、援助機関、ユーザーのグループや私的セクターと緊密に連携し、国の政策や供与システムを発展させることができる。さらに、そうした政策を発展させる上で、政府は車いすサービスが国の保健やリハビリテーション計画と結合し、緊密に連携するよう保証しなければならない。

 

コラム 1.2. 車いす供与と政府省庁

端的には、どの省庁が車いす供与に責任を負うのだろうか?

車いす供与は複数の省庁や官庁に関係している。いっぱんには保健省が保健医療やリハビリテーションサービスに関して責任を負い、したがって車いす供与にも第一に責任を負っている。しかし、国によっては他の省庁が指導的役割を果たしている。車いすサービスは、インドでは社会正義・エンパワーメント省が、ガーナでは労働・社会福祉省が供与している。ケニアでは保健省、社会福祉サービス、NGOの共同事業体が、国内の車いすサービス直配を推進している。車いすユーザーのニーズには、社会福祉省あるいは同様の官庁で取り組みうる経済・社会的な問題が含まれるので、他の省庁も役割を担うことがありうる。

 

雇用や教育に責任を負う省庁には、車いすユーザーの権利を保障する役割がある。そして、責任省庁・官庁が車いすユーザーに建築物や公共交通機関へのアクセスを保障しなければ、かれらは教育、経済、社会的な活動に参加できないのである。

 

1.9.2 製造者および供給者

 

ひとつの組織が、車いすの製造や供給に際して一つ、またはより多くの領域に関わりうる。供給とは、販売であれ寄付であれ、車いすをサービス供与者に配送することである。車いすの製造者および供給者の役割は、車いすユーザーの、さまざまな状況に対するニーズに応える車いすを開発、生産、供給することである。これには、

 

・指定された使い方に対して適正な製品を、製造し供給すること

・かれらの製品が、該当する車いすへの基準を充足、あるいは上回っているのを保証すること

・最低でも事前評価、調整、車いすユーザーへの訓練、フォローアップを提供する車いすサービスを通して、車いすを供与すること

車いすが地域で修理できるよう保証すること

 

などがある。

 

車いす供与に際して採用するサービスがどのモデルかを問わず、供給者には、以下を保証することにより、責任を果たすことを推奨する;

 

・サービス供与者に、供給された車いすを、理にかない責任あるやり方で供与する力量があること

・その供給が、当該国あるいは地域の実状に対する事前評価に基づき、また地元の製造者やサービス供与者への影響が考慮されていること

 

1.9.3 車いすサービス事業

 

車いすサービス事業は、車いすユーザーと車いす製造者・供給者の間の、欠くことのできないつながりを生み出す。サービス供与者には;

#政府の車いすサービス事業

#こうしたサービスを供与するNGO

#私的セクター

#病院や保健所

 

などがある。

 

車いすサービスの主な役割は、車いすユーザーが最適な車いすを選べるよう支援し、かれらの個別ニーズに適合するような調整あるいは改造を保証し、車いすユーザーを訓練し、フォローアップやメンテナンスのサービスを提供することである。サービス供与者はまた、以下の役割も果たす;

 

・製造者や供給者へ、車いすの設計に関するフィードバックを返す

・紹介・相談のネットワークを開発する

車いすおよびサービス事業のための、持続可能な財源を開発し発見する

 

1.9.4 専門職グループ

 

リハビリテーションは、チームワークにかかっている。セラピスト、保健・看護職員、義肢装具士理学療法医その他の専門職は、質の高いサービスを提供し、車いすユーザーのみならず職員を訓練し、ユーザーの生活の質を高め、最良の実践例を共有し記録する上で主要な役割を果たしうる。あらゆる種類のリハビリテーション従事者を含んだチームは、最終的には車いすユーザーを益し、また車いす供与という新たな専門職や専門分野の発展にとって、とりわけ有益であることを示してきた。なるべく多くの専門職グループが、資源に乏しい状況での車いす供与に関わることが求められる。そうした関与の好例が国際義肢装具学会(ISPO)で、車いす技術者への組織的な専門的訓練の開発を支援している。

 

専門職グループの役割には、

 

車いすサービス事業に責任を負う人びとの活動を指導し、支援すること

車いすサービス直配の実践や水準を向上させること

車いす専門職の配置や出向を促すこと

・情報交流を促すこと

車いす専門職の教育や訓練を推進すること

 

などがある。

 

コラム 1.3. アフリカ車いす工業会 

アフリカでは、汎アフリカ車いす製造者協会が、車いすの設計、製造、出資、配給に関わる人びとを代表している。同協会は、2003年にザンビアで開かれたアフリカ車いす製造者会議を引き継いでつくられ、現在はタンザニア連邦共和国のモシ市に置かれている。その主な活動の一つは車いす製造者どうしがたがいに助け合い、資源を共有するネットワークづくりである。

 

1.9.5 国際NGO

 

国際NGOは、多くは国のサービス直配がほとんど、あるいは全くないところでの車いす供与に携わっている。こうした組織の方針と実践は、全ての人が平等にアクセスできるような、組織された車いす供与に向けられるべきである。

 

車いす供与における国際NGOの役割には、

 

・地元の車いす供与がないところで、車いすユーザーの差し迫ったニーズに応えること

・国を支援し、車いす供与に関してその使命を全うできるようにすること

・国の機関が、国内での適切な車いすサービス直配のしくみを開発できるよう、支援すること

・その活動が、当該機関(たとえば政府)が承認し、支援する広範な長期計画の一部をなすように保つこと

障がい者団体の、車いすへアクセスし、パートナーシップを発展させる力量を高めること

・さまざまな関係者——車いすユーザー、車いすサービス供与者、政府——間の連携を促すこと

・専門的技能のトレーニングを地元でできない場合は施し、車いすサービス直配の技術・組織両面での力量を高めることにより、車いすサービスを実施しすること

・サービス事業あるいは先行プロジェクトを創設し、その最良の実践例が、政府、NGO、国際NGOによって模範とされるようにすること

 

などがある。


1.9.6 障がい者団体


障がい者団体は、車いすサービス直配の計画、立ち上げ、進行中の支援において決定的に重要な役割を果たす。また組織として、個々の車いすユーザーのニーズをより効果的に主張する能力がある。

効果的であるために、障がい者団体には、適正な製品とサービスに関する知識および経験が必要である。そうした団体は「障がい者の権利条約」の作成において重要な役割を果たし、その将来における実施にも引き続き関与する。車いすユーザーは、同条約の、自立した移動に関する第20条、およびハビリテーションとリハビリテーションに関する第26条の実施において、重要な役割を担っている。

 

障がい者団体の車いす供与における役割には、

 

車いすユーザーのニーズおよび平等な社会参加に対する障壁がなにか、明確にすること

・効果的な車いす供与および資金供与の必要に対する関心を喚起すること

・政策立案者および実施者からの、車いすサービスの開発に関する諮問に応えること

車いすサービス事業への関心を喚起し、車いすを必要としている人を把握し、かれらと車いすサービス事業所を結びつけること

車いすサービス事業を監査し評価すること

・不適正な車いす供与に反対を唱え、車いすサービス事業が承認された指針に従うようにすること

・当事者どうしの支援や訓練を提供して、車いすユーザーを支援すること

 

などがある。

 

1.9.7 車いすユーザー、家族、介助者

 

車いすユーザーとそのグループは、車いす供与の開発や実施の中心である(図1.13)。かれらは車いすサービス事業が自らのニーズを効果的に満たせるよう協力できる。

 

図1.13. 車いすユーザーのグループ 

 

車いすユーザーの役割には、

 

車いす供与の計画、実施、運営、評価に参加すること

車いす設計において開発および試験に参加すること

車いすサービス事業の中で働き、臨床、技術、訓練で役割を果たすこと

・新来の車いすユーザーを支援し、訓練すること

 

などがある。

 

車いすユーザーには、日々の生活活動を、つねに家族の援助に依存している人もいれば、もっと自立した人もいる。家族や介護者が、たとえば脳性麻痺児の親のように、車いすユーザーへの支援に日々責任を負っている場合、かれらは上記一覧のユーザーに対して掲げた役割すべてに含まれることになる。

障がい児の家族、すなわち親、兄弟姉妹やその他の親戚には、1.9.6.節末尾に掲げた一連の活動をも、引き受けることを勧める。

 

コラム 1.4. 政策および実施レベルにおける車いすユーザー@ウガンダ 

ウガンダでは車いす供与の関係者会議が2004年、保健省の主催でノルウェー障がい者協会の後援のもと開かれた。この場で、車いすユーザー、障がい者団体、製造者、政府部局、資金援助者に、車いす供与の現状についてそれぞれの構想を述べ、長期的なゴールについて合意し、それをどうやって達成するか計画することができた。この会議の結果として、車いすユーザーを保健省の車いす事業担当官に任命することになった。この人じしんの経験は車いすユーザーの視点を政策および実施レベルにもたらし、同国の車いすサービス開発のプロセスを、より豊かなものにした。

 

 

まとめ 

 

・人口の約1%に、車いすが必要です。

車いすへの権利のあらましは、国連の法令では「障がい者の権利条約」および「障がい者の機会均等化に関する基準規則」に示されています。

・適正な車いすの使用は車いすユーザーの健康と生活の質にとって有益で、ユーザーおよびその家族や社会ぜんたいの経済的便益にもつながります。

・「車いすの供与」には、車いすのデザイン、製造、配給および車いすサービス直配が含まれます。

車いす供与を発展させる取り組みでは、車いすユーザーの金銭的・身体的な障壁、リハビリテーションサービスへのアクセス、ユーザー教育、情報、選択を考慮する必要があります。

・さまざまな種類やサイズの車いすが必要なのは、車いすユーザーのニーズが多様であるからです。

車いす供与に関わる人びとには、政策立案者および実施者、車いすの製造・供給・寄付者、車いすサービス供与者および専門家集団、国内・国際NGOおよび障がい者団体、車いすユーザーおよびその家族・介護者が含まれます。

 

 

参考文献

 

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世界保健機関(WHO)「資源が少ないところで手推し車椅子を供給するためのガイドライン」第5章

5 POLICY AND PLANNING

... to implement sustainable wheelchair provision. 

5 政策と計画
…持続可能な車いす供給を行うために

The policy and planning guidelines: 
• present key activities for the planning and implementation of wheelchair provision; 
• sug

世界保健機関(WHO)「資源が少ないところで手推し車椅子を供給するためのガイドライン」第1章

1 Introduction

... to promote personal mobility and enhance quality of life. 

The introduction to the guidelines:

• defines an appropriate wheelchair; 
• introduces users; 
• points out the needs for and rights to wheelchairs; 
• describes the benefits of wheelchairs; 
• describes basic types of wheelchair and common systems of wheelchair provision; and 
• describes different stakeholders and their roles in wheelchair provision. 

1 はじめに

・・・自力での移動性、そして生活の質を高めるために。

このガイドラインの最初の章では、

・適切な車いすとはなにか定義し、
車いすユーザーとはどんな人たちなのか紹介し、
車いすへのニーズと、車いすをもつ権利について示し、
車いすがどんなよいことをもたらすのか説明し、
車いすの基本的な分類と、供給する仕組みについて説明し、
車いす供給に関係するさまざまな人びとと、各々の役割について述べる。


Wheelchairs to enhance quality of life ... 
Box 1.1. 

Testimonial from a user in Afghanistan

Zahida lives in Afghanistan, in a tent in her brother’s yard. She became paraplegic in 2001, but has had two children since then. She was referred to a hospital outpatient physiotherapy department in Jalalabad and arrived pushed in a wheelbarrow. The physiotherapists worked with the technicians of a local wheelchair workshop to provide Zahida with a three- wheel wheelchair. 

Without a wheelchair, Zahida could do very little at home without the help of her husband and children. She just lay on the bed. Her wheelchair has enabled her to successfully look after her children in a very rough and hilly compound. Zahida says, “My wheelchair – it is like my feet – I won’t go anywhere without it! With my wheelchair I can cook, make bread, visit the neighbours. When we go to a family wedding in the village I take it with me in the back of the taxi. My older daughter and son help to push me up the steep places.” 


車いすが生活の質を高めた... 
コラム1.1

アフガニスタン車いすユーザーからの証言

ザヒーダはアフガニスタンで、彼女の兄弟の敷地でテントに住んでいる。2001年に対麻痺になったが(両脚が麻痺したが)、それから二人の子をもうけた。ジャララバード市にある病院の理学療法科外来を紹介され、そこへ手押し車に載ってやって来た。理学療法士は土地の車いす工房の技術者から協力を得、ザヒーダには三輪車いすを供給した。

車いすがなければ、夫や子どもたちの助けなしに、ザヒーダが家でできることはほとんどなく、ただベッドで寝ているだけだ。車いすがあれば、でこぼこで山だらけの土地だが、子どもたちの世話だってやってのける。「車いす——自分の足みたいなもんだ——なしじゃ、どこにだって行けやしない!車いすがありゃあ、料理もできればパンも焼けるし、お隣さんへ遊びにも行ける。村で親類の婚礼がある時にゃ、車いすをタクシーの後ろに乗っけて行くのさ。坂が急な所じゃ、大きい娘や息子に押して助けてもらうんだ。」


1.1 Appropriate wheelchairs

These guidelines focus on appropriate manual wheelchairs. Manual wheelchairs are here defined as wheelchairs propelled by the user or pushed by another person. A wheelchair is appropriate when it (1): 
• meets the user’s needs and environmental conditions; 
• provides proper fit and postural support; 
• is safe and durable; 
• is available in the country: and
can be obtained and maintained and services sustained in the country at an affordable cost. 1
Throughout these guidelines, the term “wheelchair” means “appropriate manual wheelchair” unless otherwise indicated. 

1.1 適切な車いすとは
本書は、「適切な手動車いす」に焦点を絞って論じる。「手動車いす」とは、「車いすユーザー本人あるいは他の人が押して走らせる車いす」と定義しておく。「車いすが適切である」とは、

車いすユーザーのニーズや取り巻く環境条件に合っている
・適切な調整や姿勢支持が加えられている
・安全で耐久性がある
・使用する国で手に入る
・手に入れ、維持管理し、使用国で継続的なサービスを受けるための費用が手ごろである

場合をいう。

本書全体を通して、「車いす」は、とくに断らないかぎり「適切な手動車いす」を指すこととする。


1.2 Users of wheelchairs

In these guidelines, the term “users” refers to people who already use a wheelchair or who can benefit from using a wheelchair because their ability to walk is limited. Users include:
• children, adults and the elderly; 
• men and women and girls and boys; 
• people with different neuromusculoskeletal impairments, lifestyles, life roles and socioeconomic status; and 
• people living in different environments, including rural, semi-urban and urban.
Users represent a wide range of mobility needs, but they have in common the need for a wheelchair to enhance their mobility with dignity. 

1.2 車いすユーザーとは

本書でいう「車いすユーザー」とは、すでに車いすを使っており、または歩く能力が限られているため、車いすを使って益のある人びとを指す。そこには、

・子ども、大人、お年寄り(高齢者)、
・男女あるいは少年少女、
・さまざまな神経・筋肉・骨格の障がい、生活スタイル、生活で果たす役割、社会・経済的な役目をもつ人びと、
・さまざまな環境のもとで生活する人びと(たとえば農村、片田舎、都市)

が含まれる。

車いすユーザーが抱く移動へのニーズは多種多様であるが、共通して車いすに求めているのは、かれらの不可侵の(尊厳ある、人間らしい、品位ある)移動力を高めることである。


1.3 Need for wheelchairs

About 10% of the global population, i.e. about 650 million people, have disabilities (2). Studies indicate that, of these, some 10% require a wheelchair. It is thus estimated that about 1% of a total population – or 10% of a disabled population – need wheelchairs, i.e. about 65 million people worldwide.
In 2003, it was estimated that 20 million of those requiring a wheelchair for mobility did not have one. There are indications that only a minority of those in need of wheelchairs have access to them, and of these very few have access to an appropriate wheelchair (1).

1.3 車いすの需要

世界人口の約10%、およそ6.5億人は障がい者である。研究によれば、その10%前後に車いすが必要である。つまり全人口の約1%、あるいは障がい者人口の10%が車いすを求めていると推定され、それは全世界で6500万人に上る。

2003年の推計によると、そのうち2000万人が、移動のために車いすが必要であるにも関わらず、ひとつも持っていない。また、そうした車いすが必要な人びとのうち、じっさいにアクセスできるのはほんの少数であり、さらにその中でも適切な車いすを得られる人はほとんどないこともわかっている。


1.4 Right to wheelchairs

States Parties to the Convention on the Rights of Persons with Disabilities have the obligation “to take effective measures to ensure personal mobility with the greatest possible independence for persons with disabilities”. This is a commitment to provide mobility aids, such as wheelchairs, that make personal mobility possible. In 1993, the Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities (3) expressed the same commitment, demanding that countries ensure the development, production, distribution and servicing of assistive devices for people with disabilities in order to increase their independence and to realize their human rights. 

1.4 車いすへの権利

国連「障がい者の権利条約」締約国は、「障害者ができる限り自立して移動することを容易にすることを確保するための効果的な措置をとる」(第20条)責務を負っている。これは、車いすなどの移動力支援を供給し、移動の自立を実現するという公約である。1993年の国連総会決議「障害をもつ人びとの機会均等化に関する基準原則」も、同じ公約をうたっており、各国に対して、障がい者の自立と人権の実現を高めるべく、かれらに対する補助具の開発・製造・流通・サービスの確保を求めている。

These two important international declarations create rights to wheelchairs because it is universally recognized that an appropriate wheelchair is a precondition to enjoying equal opportunities and rights, and for securing inclusion and participation. Personal mobility is an essential requirement to participating in many areas of social life, and wheelchairs are for many the best means of guaranteeing personal mobility. 

この二つの重要な世界宣言が車いすへの権利をつくり出した。適切な車いすという前提条件があってこそ人権をひとしく享受する機会が得られ、インクルージョンと参加が確かなものとなる、ということが世界の共通認識となったからだ。自力移動(自立した移動)は、社会生活の多くの分野に参加する上で欠かせない要件であり、車いすは多くの人にとって移動の自立を保証する最良の手段である。

Independent mobility makes it possible for people to study, work, participate in cultural life and access health care. Without wheelchairs, people may be confined to their homes and unable to live a full and inclusive life. We know that eliminating world poverty is not possible unless the needs of those with disabilities are taken into account. Without wheelchairs, these individuals are unable to participate in those mainstream developmental initiatives, programmes and strategies that are targeted to the poor, such as are embodied in the Millennium Development Goals (4), the Poverty Reduction Strategies (5) and other national developmental initiatives. 

自立した移動ができてこそ、障がい者も学び、働き、文化生活に加わり、ヘルスケアを利用できる。車いすがなければ障がい者は家に閉じ込められ、人生をインクルージョンのうちに全うすることは不可能であろう。世界から貧困を根絶するためには、障がいを持つ人びとのニーズを考慮しなければならないことを、われわれは知っている。車いすなしには、こうした人びとは国連ミレニアム開発目標や貧困削減戦略などの国家開発イニシアティブが具現する、貧困者を対象とした開発への取り組みや計画、戦略の大勢には参加できない。

It is a vicious circle: lacking personal mobility aids, people with disabilities cannot leave the poverty trap. They are more likely to develop secondary complications and become more disabled, and poorer still. If they are children they will be unable to access the educational opportunities available to them, and without an education they will be unable to find employment when they grow up and will be driven even more deeply into poverty. 

これは悪循環なのだ。移動の自立への支援がなければ、障がい者は貧困の罠を脱することができない。かれらはより確実に二次障がいが増悪し、さらに障がいが重くなるうえ、いっそう貧しくなる。それが子どもであれば、教育機会へのアクセスを失い、教育を受けていないことで成長しても仕事の口がなく、さらに深く貧困の淵に沈んで行く。

On the other hand, access to appropriate wheelchairs allows people with disabilities to work and participate in mainstream development initiatives that will reduce their poverty (see Fig.1.1.). Similarly, a wheelchair can enable a child to go to school, to gain an education and, when the time comes, to find a job (see Fig.1.2.). 

いっぽう、適切な車いすが手に入れば、障がい者は働き、貧困を減らすための開発イニシアティブの大勢にも加われる。同じく、車いすによって子どもは通学ができ、教育を得、長じては仕事に就くことができる。

Fig. 1.1. User at work Fig.
1.2. User at school 

The right to a wheelchair must be an essential component of all international endeavours to secure the human rights of people with disabilities. 

図1.1 働く車いすユーザー
図1.2 学校での車いすユーザー

車いすへの権利は、障がい者に人権を保障する国際的な取り組みにおいて、不可欠な構成要素である。

1.5 Benefits of wheelchairs

Wheelchair provision is not only about the wheelchair, which is just a product (6). Rather, it is about enabling people with disabilities to become mobile, remain healthy and participate fully in community life. A wheelchair is the catalyst to increased independence and social integration, but it is not an end in itself (6–8) (see Fig.1.3.). 

車いすがもたらすよいこと

車いすによって与えられるものは、車いすそれ自体にとどまらない。車いすは製品にすぎないのだ。与えられるのは、障がいを抱える人びとが移動でき、健康でいられ、社会生活のあらゆることに参加できるようになることの方である。車いすは自立や社会的つながりの増大を加速する触媒ではあっても、それ自体が目的ではない(6–8) (図1.3)。

Fig.1.3. Participation in community life
図.1.3.社会生活への参加

The benefits of using an appropriate wheelchair include those outlined below. 

適切な車いすの使用がもたらすよいことには、以下に述べるものが含まれる。

Health and Quality life

In addition to providing mobility, an appropriate wheelchair is of benefit to the physical health and quality of life of the user. Combined with adequate user training, an appropriate wheelchair can serve to reduce common problems such as pressure sores, the progression of deformities or contractures, and other secondary conditions (9). A wheelchair with a proper cushion often prevents premature death in people with spinal cord injuries and similar conditions and, in one sense, is a life-saving device for these people. A wheelchair that is functional, comfortable and can be propelled efficiently can result in increased levels of activity. Independent mobility and increased physical function can reduce dependence on others. Other benefits, such as improved respiration and digestion, increased head, trunk and upper extremity control and overall stability, can be achieved with proper postural support. Maintenance of health is an important factor in measuring quality of life. These factors combined serve to increase access to opportunities for education, employment and participation within the family and the community. 

健康および質の高い生活
移動できるようになることに加え、適切な車いすは、車いすユーザーに身体の健康と質の高い生活とをもたらす。車いすユーザーへの適切な訓練と組み合わせることで、適切な車いすは、よくありがちな問題、たとえば褥瘡、身体変形や拘縮の進行その他の二次障がいを抑えるのに役立つ (9)。車いすは適切なクッションを備えることで、脊髄損傷や同じような障がいを抱えた人びとの早期死亡を予防することがしばしばある。つまり、ある意味こうした人びとにとっては救命具ともいえるのだ。機能的かつ快適で、効率よく動かせる車いすは、その結果、活動の水準を引き上げる。移動において自立し、身体機能が向上すれば、他者への依存を減らせる。他のよいこと、たとえば呼吸や消化が改善し、頭や体幹、上肢のコントロールおよび全体的な安定が増すことは、適切な姿勢支持によってもたらされる。健康維持は、生活の質を測る重要な要素の一つである。以上の要素は複合して、教育機会へのアクセス、雇用、家庭や地域生活への参加の増大に貢献する。
 
Economy

A wheelchair often makes all the difference between being a passive receiver and an active contributor. Economic benefits are realized when users are able to access opportunities for education and employment. With a wheelchair, an individual can earn a living and contribute to the family’s income and national revenue, whereas without a wheelchair that person may remain isolated and be a burden to the family and the nation at large. Similarly, a wheelchair that is not durable will be more expensive owing to the need for frequent repairs, absence from work and eventual replacement of the wheelchair. Providing wheelchairs is more cost-effective if they last longer (10). It is also more cost-effective if users are involved in selecting their devices and if their long-term needs are considered (11). 
For society, the financial benefits associated with the provision of wheelchairs include reduced health care expenses, such as those for treating pressure sores and correcting deformities. A study from a developing country reported that in 1997, 75% of those with spinal cord injuries admitted to hospital died within 18–24 months from secondary complications arising from their injuries. In the same place, the incidence of pressure sores decreased by 71% and repetitive urinary tract infections fell by 61% within two years as a result of improvements in health care training and appropriate equipment, including good wheelchairs with cushions (12). 

経済
車いすはしばしば、消極的な受益者、あるいは積極的な寄与者という、まったく違うもの(人間)を生み出す。経済的便益が実現するのは、車いすユーザーが教育や雇用の機会へアクセスできる時だ。車いすがあれば一人で生計を立てられ、家計収入や国家歳入に貢献できる一方、車いすがなければ、人は孤立したままで家族や、ひいては国家の負荷となる。同様に、耐久性に欠ける車いすは、頻繁に修理が必要で、仕事を休んだり、時には車いすを取り替えるために高くつく。車いすは長持ちすればするほど、費用効果はより高くなる (10)。また車いすユーザーがじぶんの機器選びに参加し、かれらの長期的なニーズが考慮される場合も、費用効果は高まる (11)。
社会にとって、車いすを供給することにともなう財政的便益には、たとえば褥瘡の治療や身体変形の矯正などに対する保健医療支出の削減が含まれる。1997年に発表された発展途上国での研究によれば、脊椎損傷を負って入院した人の75%が、18〜24か月のうちに、その損傷からの二次障害によって亡くなっている。同じ研究では、健康管理トレーニングの改善、よい車いすやクッションを含む適切な機器の結果、2年以内に褥瘡の発生が71%、反復性尿路感染が61%減少している (12)。

1.6 Challenges for users

Users face a range of challenges, which must be considered when developing approaches to wheelchair provision. 

Financial barriers
Some 80% of the people with disabilities in the world live in low-income countries. The majority of them are poor and do not have access to basic services, including rehabilitation facilities (13). The International Labour Organization (ILO) reports that the unemployment rates of people with disabilities reach an estimated 80% or more in many developing countries (14). Government funding for the provision of a wheelchair is rarely available, leaving the majority of users unable to pay for a wheelchair themselves. 

Physical barriers
As many users are poor, they live in small houses or huts with inaccessible surroundings. They also live where road systems are poor, there is a lack of pavements, and the climate and physical terrain are often extreme. In many contexts, public and private buildings are difficult to access in a wheelchair. These physical barriers place additional requirements on the strength and durability of wheelchairs. They also require that users exercise a high degree of skill if they are to be mobile. 

Access to rehabilitation services
In many developing countries, only 3% of people with disabilities who require rehabilitation services have access to them (15). According to a report of the United Nations Special Rapporteur (16), 62 countries have no national rehabilitation services available to people with disabilities. This means that many wheelchair users are at risk of developing secondary complications and premature death that could be avoided with proper rehabilitation services. In many countries, wheelchair service delivery is not included in the national rehabilitation plan.

Education and information
Many users have difficulty in accessing relevant information, such as on their own health conditions, prevention of secondary complications, available rehabilitation services and types of wheelchair available. For many, a wheelchair service may be their first access to any form of rehabilitation service. This places even more emphasis on the importance of user education. 

車いすユーザーが抱える困難
車いすユーザーはさまざまな困難に直面するが、車いす供給を発展させる上で、これらについてはよく考える必要がある。

財政的障壁
世界の障がい者の約80%は、発展途上国で暮らしている。その大多数は貧しく、リハビリテーション施設を含む基礎的なサービスにもアクセスできない (13)。国際労働機関(ILO)の報告では、多くの発展途上国障がい者の失業率は、推計で80%かそれ以上に達する (14)。車いす供給への政府の資金供与を利用できることはまれで、大多数の車いすユーザーが自力では車いすにお金を払えないまま、放って置かれている。

物理的障壁
多くの車いすユーザーは貧しいため、周りへのアクセスも悪い場所の小さな家か小屋で暮らしている。かれらが暮らしているところは道路網も貧弱で舗装されておらず、気候や地形もいっぱんに険しい。さまざまな経緯で、公的あるいは私的な建物は、車いすには近づきがたいものだ。こうした物理的な障壁は、車いすにさらなる堅牢さや耐久性を要求する。これらはまた、車いすユーザーにも高度な移動技術の習得を要求する。

リハビリテーションサービスへのアクセス
多くの発展途上国で、リハビリテーションサービスを受ける必要のある障がい者のうち、アクセスできるのはわずか3%にすぎない (15)。国連特別報告者のレポートでは (16)、62か国には障がい者が利用できる国のリハビリテーションサービスが存在しない。これは多くの車いすユーザーが、二次障害の増悪、および適切なリハビリテーションサービスによって避けうる若年性死亡というリスクにさらされていることを意味する。多くの国で、車いす適合直接サービスは、政府のリハビリテーション計画に含まれていない。

教育と情報
多くの車いすユーザーは、自分に関わる情報を入手する上で困難を抱えている。たとえば自分自身の健康状態、二次障害の予防、利用できるリハビリテーションサービスや車いすの種類などである。多くの障がい者にとり、車いすサービスはあらゆるリハビリテーションサービスのうち最初に触れるものだ。これは、車いすユーザーへの教育の重要性を、さらに強調する事実である。

Choice
Users are rarely given the opportunity to choose the most appropriate wheelchair. Often there is only one type of wheelchair available (and often in only one or two sizes), which may not be suited to the user’s physical needs, or practical in terms of the user’s lifestyle or home or work environment. According to the Convention on the Rights of Persons with Disabilities, “States Parties shall take effective measures to ensure personal mobility with the greatest possible independence for persons with disabilities ... by facilitating the personal mobility of persons with disabilities in the manner and at the time of their choice, and at affordable cost” (17). 

選択
車いすユーザーが、もっとも適切な車いすを選ぶ機会に恵まれることはまれである。手に入る車いすが一種類だけ、ということもしばしばで(またえてして、サイズも一つか二つしかない)、これでは車いすユーザーの身体的ニーズには適合せず、車いすユーザーの生活スタイル、家、仕事環境に対して実用的にもならないだろう。障がい者の権利条約[第20条]によると、「締約国は・・・障害者が、自ら選択する方法で、自ら選択する時に、かつ、妥当な費用で個人的に移動できるよう促進し・・・障害者のできる限り自立した移動を保障するための、効果的な措置をとるべきである。」


1.7 Wheelchair provision 
Wheelchair provision usually includes the design, production and supply of wheelchairs and delivery of wheelchair services. 

1.7 車いすの供給 
車いすの供給」に通常含まれるのは、車いすのデザイン、製造、配給および車いすサービスを手渡すことである。 

Fig.1.4. Wheelchair provision

図1.4. 車いすの供給
デザイン
 >製造
  >配給
   >直接サービス


Wheelchair provision can only enhance a wheelchair user’s quality of life if all parts of the process are working well. This includes ensuring users have access to: 
• wheelchairs of an appropriate design; 
• wheelchairs that have been produced to appropriate standards; 
• a reliable supply of wheelchairs and spare parts; and 
• wheelchair services that assist the user in selecting and being fitted with a wheelchair, provide training in its use and maintenance, and ensure follow-up and repair services.
Personnel involved in each area of wheelchair provision need to have the correct skills and knowledge. This means that training is essential for those involved in wheelchair provision.
車いす供給によって車いすユーザーの生活の質が向上するのは、そのすべての過程がうまく働いた場合に限られる。これには、車いすユーザーに以下へのアクセスを保証することを含む;

・適切にデザインされた車いす
・適切な基準にしたがって製造した車いす
車いすおよび交換パーツの確実な供給
車いすに関するサービス、すなわち車いすの選択や個別調整における車いすユーザーへの支援、使い方やメンテナンスに関するトレーニング、フォローアップや修理サービスの保証。

車いす供給の各領域に関わる人は、正確なスキルと知識を持っている必要がある。これは、車いす供給に関わる人びとの研修が不可欠であることを意味する。

The design of a wheelchair depends on a number of factors: 
• the physical needs of users; 
• the way and the environment in which the wheelchair will be used; and 
• the materials and technology available where the wheelchair is made and used.
Wheelchairs can be produced in the country or outside the country. Those produced outside the country are often mass produced and imported as new or used wheelchairs. Wheelchairs can be supplied to wheelchair service providers by manufacturers, agents or distributors, or by organizations specializing in wheelchair supply.
Information on design, production and supply is provided in Chapter 2.

車いすのデザインは、多くの要因によって違ってくる。例えば、
車いすユーザーの身体的ニーズ
車いすの使い方や使用環境
車いすを製造し、使用する上で利用できる素材や技術

車いすは国内でも国外でも製造されうる。外国製の車いすはえてして、大量生産品で新品あるいは中古品として輸入される。車いすは製造者や代理店、販売店あるいは車いす供給の専門機関が、車いすサービス供与者へ供給する。

デザインや製造、供給に関する情報は、第2章を参照。


Appropriate provision of wheelchairs is most important in the successful rehabilitation of people who need a wheelchair for mobility. Historically, however, wheelchair service delivery has not been an integral part of rehabilitation services. This is due to many factors, including poor awareness, scarce resources, a lack of appropriate products, and a lack of training for health and rehabilitation personnel in wheelchair service delivery.
In many countries, users depend on charity or external donations. Donated wheelchairs are often inappropriate and of poor quality, giving further problems for the user and for the country in the long run. Users are not in a position to demand good quality from charities. A study in India revealed that 60% of wheelchair users who had received donated wheelchairs stopped using them owing to discomfort and the unsuitability of the wheelchair design for the environment in which it was used (18).
The result is that many people who require a wheelchair do not receive one at all, while those who do often get one without any assessment, prescription, fitting and follow-up. Many users, even people with spinal cord injury, often get wheelchairs without a cushion or basic instructions, which can lead to pressure sores and even premature death.
There is, however, increasing awareness of the importance of providing individual assessment, fitting and training in how to use a wheelchair. In a number of less-resourced settings, wheelchair services have been established using different models of service delivery. Such models include centre-based or community-based services, outreach services, mobile “camp”-style services and donations of imported wheelchairs. In countries where user groups are well informed and service providers have the necessary knowledge and support, wheelchair services are becoming integrated into existing rehabilitation activities. The common aim is to ensure that users are given skilled assistance in selecting the most appropriate wheelchair for their needs. 
Information on wheelchair services is provided in Chapter 3. 

車いすの適切な供給は、移動のために車いすを必要とする人びとのリハビリテーションがうまく行く上で、たいへん重要である。しかし歴史をみると、車いす適合直接サービスは、リハビリテーションサービスの不可分な一部とはなってこなかった。これにはさまざまな原因があり、貧弱な認識、資源の不足、適切な製品の欠如、保健医療やリハビリテーションに携わる人材への、車いす適合直接サービスに関する研修の欠如などである。
多くの国で車いすユーザーが頼っているのが、慈善や外部からの寄付である。寄付品の車いすはえてして、適合しないか質が悪く、長い目で見ると車いすユーザーやかれらの国にさらに問題を与える。車いすユーザーは立場上、慈善の品に良い品質を要求できない。インドでの研究で明らかになったが、寄付品の車いすをもらった車いすユーザーの60%が使うのをやめており、それは不快だったり、車いすのデザインが使用環境に適合していないことによる (18)。
その結果、車いすを必要とする多くの人びとがまったくそれを得られない一方で、得られる者も事前評価や処方、調整やフォローアップは受けられない、といったことになる。多くの車いすユーザーに、たとえ脊椎損傷を被っていても、しばしばクッションのない車いすが基礎的な指導抜きで与えられるが、それは褥瘡、あるいは若年性死亡すら引き起こす。
しかし一方、車いすに関する個別の事前評価や調整、使い方に関する研修の重要性に対する認識も高まりつつある。資源に乏しい状況で、さまざまな直接サービスのモデルを使って、いくつもの車いす適合サービスが確立されてきた。
そうしたモデルにはセンター中心型、地域中心型、訪問サービス型、移動式「キャンプ」型サービスや輸入車いすの寄付型などがある。車いすユーザーのグループが豊富な情報を持ち、サービス供与者が必要な知識をもって支援を行なっている国では、車いす適合サービスは既存のリハビリテーション活動に統合されつつある。それらに共通の目標は、車いすユーザーが熟練者による援助を受け、ニーズにもっとも適した車いすを選べるよう保証することである。
車いす適合サービスに関する情報は、第3章を参照。

In less-resourced settings, limited training opportunities result in few people being trained to manage the provision of wheelchairs and other assistive devices. Scarcity of trained personnel to assist in choosing and obtaining a wheelchair becomes a barrier to participation (19). 
Existing courses for health and rehabilitation professionals provide little input on wheelchair service delivery and related issues. In some instances, national personnel may have had informal training from expatriate personnel, but such training is often limited to the products available in the country and the trainer’s own experience and abilities. If the training is not recorded it is not replicable, and the resulting skill levels are not measurable. It is difficult for local personnel to continue practicing skills derived from this type of informal training once the trainers and original users leave the service. 
The lack of formal training has resulted in a lack of recognition of specialist skills in wheelchair provision. In an attempt to address these needs, some initiatives have been taken by development organizations. 
Detailed information on training is provided in Chapter 4. 

資源の乏しい状況では、トレーニングの機会も限られ、そのけっか車いすその他の支援機器の供給を担える人は、ほとんどいないことになる。車いすを選んだり取得する手伝いのできる訓練された人材が足りなければ、それは社会参加への妨げとなる (19)。

既存の保健医療やリハビリテーション専門家の教程では、車いす適合サービスやそれに関連する項目について教わることはほとんどない。いくつかのことがらに関して、政府職員が専門家から非公式の研修を受けることはあるかもしれないが、そうした研修は、えてしてその国で手に入る製品や、講師じしんの経験や能力に限定される。もしその研修を記録しなければ反復もされず、成果であるスキルの水準も測りえない。地元の職員にとって、この種の非公式な研修によって継続してスキルを習得することは、いったんその講師やほんらいの車いすユーザーがサービスから離れてしまえば、困難になってしまう。
形式を備えた研修が行われないと、そのけっか車いす供給に関する専門的スキルへの認識も生まれない。そこで、これらのニーズに応えるため、開発機関がいくつかの取り組みを行ってきた。
トレーニングに関する詳しい情報は、第3章を参照。


1.8 Types of wheelchair

No single model or size of wheelchair can meet the needs of all users, and the diversity among users creates a need for different types of wheelchair. Those selecting wheelchairs, in consultation with the user, need to understand the physical needs of the intended user and how he or she intends to use the wheelchair, as well as knowledge of the reasons for different wheelchair designs.

ただ一つの種類やサイズで、あらゆる車いすユーザーのニーズに応えられる車いすはありえない。車いすユーザーの多様さが、さまざまな種類の車いすへのニーズを生む。車いすユーザーからの相談に応じて車いすを選ぶものは、車いすのデザインがさまざまである理由を知っているだけでなく、対象ユーザーの身体的ニーズ、およびそのユーザーが車いすをどう使うつもりなのか、を把握していなければならない。

The ability to adjust or customize a wheelchair to meet the user’s physical needs will vary, depending on the type of wheelchair. Often, wheelchairs are available in at least a small range of sizes and allow some basic adjustments. 
Wheelchairs designed for temporary uses (for example, to be used in a hospital to move patients from one ward to another) are not designed to provide the user with a close fit, postural support or pressure relief. Orthopedic or “hospital” wheelchairs are an example of this type (see Fig. 1.5). 

車いす車いすユーザーの身体ニーズに応じて調節あるいはカスタマイズできる幅は、車いすの種類によってちがう。車いすは多くの場合、最低でもサイズに少しは選択肢があり、いくつかの基本的な調整はできるようになっている。
一時的な使用のためにデザインされた車いす(例えば、病院で患者を病棟から病棟へ移送するために使うもの)は、車いすユーザーにぴったりフィットして姿勢を支持し、または圧力を緩和するためのデザインではない。整形外科あるいは「病院用」車いすが、この種類のよい例である(図1.5.)。

Fig. 1.5. Wheelchair designed for temporary user

図1.5. 一時的ユーザーのための車いす 

Fig. 1.6. Wheelchair designed for long-term user
図1.6. 長期的ユーザーのための車いす 

Fig. 1.7. Wheelchair designed for user with postural support needs 
図1.7. 姿勢支持が必要なユーザーのための車いす

For long-term users, a wheelchair must fit well and provide good postural support and pressure relief (Fig. 1.6). A range of seat widths and depths, and the possibility to adjust at least the footrest and backrest height are important in ensuring that the wheelchair can be fitted correctly. Other common adjustments and options include cushion types, postural supports and an adjustable wheel position. 

長期にわたる車いすユーザーには、車いすはきちんとフィットして姿勢を支持し、また圧力を緩和するものでなければならない(図1.6.)。シートの横幅や奥行きに動かす余地があり、少なくとも足置きや背もたれの高さを調節できることは、車いすを正しくフィットさせる上で重要である。その他の一般的な調節点や選択肢には、クッションの種類、姿勢支持、調節可能な車輪位置などがある。

Highly adjustable or individually modified wheelchairs are designed for long-term users with special postural needs (Fig. 1.7). Such wheelchairs often have additional components added to help support the user.

幅広い調節が可能、あるいは個別に改造した車いすは、長期的ユーザーで姿勢に関して特殊なニーズをもつ人のためのデザインである(図1.7.)。そうした車いすの多くには、そのユーザーを支持するために取り付ける追加パーツがある。

How the wheelchair is used
Wheelchair designs vary to enable users to safely and effectively use their wheelchair in the environment in which they live and work. 

車いすの使われ方
車いすのさまざまなデザインにより、車いすユーザーは安全かつ効果的に、車いすを住まい、あるいは働く環境で使うことができる。

A wheelchair that is used primarily in rough outdoor environments needs to be robust, more stable and easier to propel over rough ground. Fig. 1.8 illustrates an example of a three-wheeled wheelchair that would be well suited to outdoor use. In comparison, a wheelchair that is used indoors on smooth surfaces needs to be easy to manoeuvre in small indoor spaces.

おもに屋外の凸凹なところで使う車いすは、頑丈で安定しており、凸凹な地面を乗り越えて進めるものでなければならない。図1.8.は、屋外用に適した三輪車いすの例である。

Fig. 1.8. Wheelchair suitable for outdoor use
図1.8. 屋外用に適した車いす

Fig. 1.9. Wheelchair suitable for indoor and outdoor use 
図1.9. 屋内・屋外兼用に適した車いす 

Many users live and work in a range of settings, and a compromise is therefore often necessary. Fig. 1.9 shows a robust wheelchair with a relatively short wheelbase but large castor wheels. This wheelchair could be used both indoors and outdoors.

車いすユーザーの多くは、さまざまな状況で住まい、働いているため、しばしば妥協も必要になる。図1.9.は頑丈な車いすホイールベースは比較的短いが前輪径が大きいものである。この車いすであれば、屋内でも屋外でも使える。

Users need to be able to get in and out of the wheelchair easily, to propel it efficiently and to repair it. Users may need to transport their wheelchair, for example in a bus or car (Fig. 1.10). Different wheelchair designs allow for wheelchairs to be made more compact in different ways. Some are cross-folding (Fig. 1.10), while others have quick-release wheels (Fig.1.11. and Fig.1.12.) and the backrest folds forwards.

車いすユーザーは、車いすを容易に乗り降りでき、効率よく進ませ、修理できねばならない。車いすユーザーは、例えばバスや車で自分の車いすを運ばねばならないこともある(図1.10.)。いろいろなデザインの車いすで、それぞれのやり方でよりコンパクトにできるものがある。クロスパイプ式折りたたみのもの(図1.10.)もあれば、クイックリリース車輪を備えたもの(図1.11、図1.12.)や、背もたれを前に折りたためるものもある。

Fig. 1.10. Folding wheelchair 
図1.10. 折りたたみ式車いす 

Fig. 1.11. Quick-release wheels 
図1.11. クイックリリース車輪 

Fig. 1.12. Detachable wheels 
図1.12. 取り外し式の車輪 


These needs and their related wheelchair design features are discussed in Chapter 2. 

これらのニーズや、それらに対応した車いすデザインの特色は、第2章で論じる。
 
Materials and technology available 
Wheelchair designs vary, depending on the materials and technology available for production and repair. For example, wheelchair designers must take into account the strength and variability of the available materials to avoid premature failure. In the case of failure, the wheelchair should be easily repairable (20). See Chapter 2 for more information on this topic.

使用可能な素材と技術 
車いすのデザインは、製造し修理する上で使用できる、素材と技術によって変わってくる。たとえば、車いすデザイナーは初期故障を避けるために、使用できる素材の強度と可変性とを考慮しなければならない。故障した場合も、車いすは簡単に修理できるものであるべきだ (20)。このトピックに関する詳しい情報は第2章を参照。

1.9 Stakeholders and their roles
1.9 関係する人びととその役割

1.9.1 Policy planners and implementers
1.9.1 政策立案者と実施者

Policy planners and implementers are directly involved in the planning, initiation and ongoing financial, advisory and legislative support of wheelchair provision. The role of policy planners includes the following.

政策の立案者および実施者は、車いすの供給における計画、取りかかり、実施中の財政、助言、法制といった面での支援に、直接関わっている。政策立案者の役割には、以下のようなものが含まれる;

• Wheelchair provision policy is developed in consultation with other stakeholders, aiming at effective measures to ensure personal mobility with the greatest possible independence for people with disabilities. This includes:
affordable cost;
and
• Standards for wheelchair products, service delivery and training are adopted, promoted and enforced. 
• Measures are taken to ensure that wheelchair provision is equitable and accessible to all, including women and children, the poorest and those in remote areas. 
• Wheelchair services are developed as an integral part of health care structures and in coordination with associated services, such as rehabilitation, prosthetic, orthotic and community-based rehabilitation services. 
• Sustainable funding policies for wheelchair provision are developed.
• Wheelchair user groups and disabled peoples’ organizations are involved at every stage from planning to implementation.

車いすの供給政策を、他の関係者との、障がい者へ最大限に自立した自力移動を保証するための効果的な施策を目的とした協議を通して発展させる。ここには以下のことがらが含まれる;
 #好みの方法で好みの時に、手ごろな費用で行える自立した移動の促進
 #手ごろな費用で手に入るようにするなど、車いすへのアクセス
 #障害者やリハビリテーション従事者への移動スキルに関する研修の実施
 #車いすその他の移動補助具を製造する、国内の事業主体への支援
車いすの製造、直接サービス、研修に関する基準を採用、承認、実施する。
車いす供給が誰にでも、女性や子ども、最貧困者や遠隔地の人びとに対しても、公平に行われアクセス可能であることを保証する施策を講じる。
車いすサービスが、それが保健医療の不可分な一部を構成し、関連するサービス、たとえば義肢、装具、地域リハビリテーションなどのサービスと連携するよう発展させる。
車いす供給に対する、持続可能な財政支援政策を発展させる。
車いすユーザーのグループや障がい者組織を、計画から実施までのあらゆる段階に参画させる。

According to United Nations Standard Rules and the Convention, it is the primarily responsibility of countries to make wheelchairs available at an affordable cost. Ensuring the availability of wheelchair services within a country does not necessarily mean the direct provision of services by the government. Nevertheless, the government can work closely with nongovernmental and international nongovernmental organizations, development agencies, user groups and the private sector to develop national policies and a provision system. Furthermore, in developing the policy one needs to ensure that wheelchair services are cohesive and closely linked with national health and rehabilitation strategies. 

国際連合の基準規則および条約によれば、車いすを手ごろな費用で手に入るようにする責任は、第一に国にある。国内で車いすサービスを受けられるよう保証するために、必ずしも直接政府がサービスを提供する必要はない。しかし政府はNGOや国際NGO、援助機関、ユーザーのグループや私的セクターと緊密に連携し、国の政策や供給システムを発展させることができる。さらに、そうした政策を発展させる上で、政府は車いすサービスが国の保健医療やリハビリテーション戦略と結合し、緊密に連携するよう保証しなければならない。

Box 1.2. Wheelchair provision and government ministries 
Which ministry is typically responsible for wheelchair provision? 
Wheelchair provision impacts on a number of government ministries and authorities. Ministries of health are generally responsible for health care and rehabilitation services, and therefore have a primary responsibility for wheelchair provision. In some countries, however, other ministries take a leading role. In India, wheelchair services are provided by the Ministry of Social Justice and Empowerment and in Ghana by the Ministry of Labour and Social Welfare. In Kenya, a consortium of the Ministry of Health, social welfare services and nongovernmental organizations facilitates wheelchair service delivery within the country. Other ministries can also play a role, as the needs of users include economic and social issues that may be addressed by the ministry of social welfare or similar. 

Ministries responsible for employment and education have a role in ensuring the rights of wheelchair users. Thus, unless the responsible ministries or authorities ensure that wheelchair users have access to buildings and public transport, they will not be able to participate in educational, economic and social activities.

コラム 1.2. 車いす供給と政府省庁
いっぱんに、どの省庁が車いす供給に責任を負うのだろうか?
車いす供給は複数の省庁や官庁に関係している。たいてい保健省が保健医療やリハビリテーションサービスに関して責任を負い、したがって車いす供給にも第一に責任を負っている。しかし、国によっては他の省庁が指導的役割を果たす。車いすサービスは、インドでは社会正義・エンパワーメント省が、ガーナでは労働・社会福祉省が供与している。ケニアでは保健省の共同事業体、社会福祉サービスおよびNGOで、国内の車いす適合直接サービスを推進している。車いすユーザーの経済・社会的な問題を含んだニーズを、社会福祉省や同様の官庁が対処するなど、他の省庁も役割を担いうる。

雇用や教育に責任を負う省庁には、車いすユーザーの権利を保障する役割がある。そして、責任省庁・官庁が車いすユーザーに建築物や公共交通機関へのアクセスを保証しなければ、かれらは教育、経済、社会的な活動に参加できないのである。
 
1.9.2 Manufacturers and suppliers
1.9.2 製造者と供給者

An organization may be involved in one or more of the areas of manufacturing and supplying wheelchairs. Supplying means delivering wheelchairs to service providers, either through sale or donation. The role of manufacturers and suppliers of wheelchairs is to develop, produce or supply wheelchairs that meet the needs of users in different contexts. This includes:

ひとつの組織が、車いすの製造や供給に際して一つ、またはそれ以上の領域に関わることもありうる。供給とは、販売であれ寄付であれ、車いすをサービス供与者に配送することである。車いすの製造者および供給者の役割は、車いすユーザーの、さまざまな状況でのニーズに応える車いすを開発、生産、供給することである。これには;

• manufacturing or supplying products that are appropriate for the use to which they will be put; 
• ensuring their products meet or exceed relevant wheelchair standards; 
• providing wheelchairs through wheelchair services that offer, as a minimum, assessment, fitting, user training and follow-up; and 
• ensuring that wheelchairs can be repaired locally.
Irrespective of the service model used to provide wheelchairs, it is recommended that suppliers exercise their responsibility by ensuring that: 
• the service provider has the capacity to provide the supplied wheelchairs in a reasonable and responsible manner; and 
• the supply is based on an assessment of the situation in the country or region and considers the impact on local manufacturers and service providers.
・課された使い方に対して適切な製品を、製造し供給すること
・かれらの製品が、該当する車いすへの基準を充足、あるいは上回っているのを保証すること
車いすサービスを、最低でも事前評価、調整、車いすユーザーへの研修、フォローアップは提供すること
車いすが地域で修理できるよう保証すること

が含まれる。

車いす供給に際して採用するサービスがどのモデルかを問わず、供給者には、以下のことがらを保証することにより、責任を果たすことを推奨する;

・サービス供与者に、供給される車いすを、理にかない責任あるやり方で受け渡す力量があること
・その供給が、当該国あるいは地域の実状に対する事前評価に基いており、かつ地元の製造者やサービス供与者への影響が考慮されていること

1.9.3 Wheelchair services
1.9.3 車いすサービス

Wheelchair services provide the essential link between the users and the manufacturers and suppliers of wheelchairs. Service providers include: 
• government wheelchair services 
• nongovernmental organizations that provide such services 
• the private sector 
• hospitals and public health centres.

車いすサービスは、車いすユーザーと製造者および供給者の間を結ぶものとして不可欠である。サービス供与者には;
#政府の車いすサービス
NGOが供与するこうしたサービス
#私的セクター
#病院や保健所

などが含まれる。

The main role of a wheelchair service is to assist users to choose the most appropriate wheelchair, to ensure that it is adjusted or modified to suit their individual needs, to train users, and to provide follow-up and maintenance services. Service providers also play a role in: 
• giving feedback to manufacturers and suppliers about wheelchair design; 
• developing referral networks; and 
• developing and finding sustainable funding sources for wheelchairs and services.
車いすサービスの主な役割は、車いすユーザーが最適な車いすを選べるよう支援し、かれらの個別ニーズに適合させる調整あるいは改造を保証し、フォローアップやメンテナンスのサービスを提供することである。サービス供与者はまた、以下の役割も果たす;

・製造者や供給者へ、車いすのデザインに関するフィードバックを返す。
・紹介や相談のネットワークを発展させる。
車いすおよびサービスに関する、持続的な財源を開発し発見する。

1.9.4 Professional groups
1.9.4 専門職グループ

Rehabilitation is a question of teamwork. Professionals such as therapists, health/nursing personnel, orthotists/prosthetists, physiatrists and others can play a major role in providing quality services, training personnel as well as users, enhancing the quality of life of the users, and sharing and documenting best practices. A team comprising all groups of rehabilitation personnel can ultimately benefit the user and has in particular proven useful in the development of the new profession or discipline of wheelchair provision. More professional groups need to be involved in wheelchair provision in less-resourced settings. A good example of such involvement is the International Society for Prosthetics and Orthotics (ISPO), which has supported the development of structured professional training for wheelchair technologists.

リハビリテーションは、チームワークの問題である。セラピスト、保健・看護職、義肢装具士理学療法医その他の専門職は、質の高いサービスを提供する上で主要な役割を果たし、車いすユーザーのみならず研修担当者も、ユーザーの生活の質を高め、最良の実践例を共有し記録する。あらゆる職種のリハビリテーション従事者を含んだチームは、最終的には車いすユーザーを益し、また車いす供給という新たな専門職あるいは専門分野の発展にとり、とくに有益であることがわかっている。また、さらに多くの専門職グループが、資源の乏しい状況での車いす供給に関わっている。そうした関与の好例が国際義肢装具学会(ISPO)で、車いす技術者への組織的な専門トレーニングの開発を支援している。

The role of professional groups includes: 
• guiding and supporting the activities of those responsible for wheelchair services; 
• advancing the practice and standards of wheelchair service delivery; 
• facilitating the placement and secondment of wheelchair professionals; 
• facilitating the exchange of information; and 
• promoting the education and training of wheelchair professionals.

専門職グループの役割には;
車いすサービスに責任を負う人びとの活動を指導し、支援する。
車いす適合直接サービスの実践や水準を向上させる。
車いす専門職の配置や出向を促す。
・情報交流を促す。
車いす専門職の教育やトレーニングを推進する。

が含まれる。

Box 1.3. Wheelchair industry association in Africa 
In Africa, the Pan Africa Wheelchair Builders Association represents those involved in wheelchair design, production, funding and distribution. The Association was formed following a meeting of African wheelchair producers in Zambia in 2003 and is now established in Moshi, United Republic of Tanzania. One of its main activities is networking among wheelchair builders to support each other and to share resources. 

コラム 1.3. アフリカ車いす工業会 
アフリカでは、汎アフリカ車いす製造者協会が、車いすのデザイン、製造、出資、配給に関わる人びとを代表している。同協会は、2003年にザンビアで開かれたアフリカ車いす製造者会議の後を受けてつくられ、現在はタンザニア連邦共和国のモシ市に置かれている。その主な活動の一つは車いす製造者どうしのネットワークづくりで、それを通してたがいに助け合い、資源を共有している。

1.9.5 International nongovernmental organizations
1.9.5 国際NGO

International nongovernmental organizations are often involved in facilitating wheelchair provision where there is little or no national service delivery. The policies and practices of these organizations should promote coordinated wheelchair provision that is equally accessible to all. 
The role of international nongovernmental organizations in wheelchair provision includes: 
• meeting the immediate needs of users where local wheelchair provision is lacking; 
• supporting the state to fulfill its obligations concerning wheelchair provision; 
• assisting the national authorities to develop a proper wheelchair service delivery system within the country; 
• ensuring their activities are part of a broader long-term strategy acknowledged and supported by relevant authorities (e.g. the government); 
• building the capacities of disabled people’s organizations in accessing wheelchairs and developing partnerships; 
• facilitating links between the various stakeholders – users, wheelchair service providers and governments; 
• implementing wheelchair services by providing training expertise where none is available locally, and building capacities for both the technical and organizational aspects of wheelchair service delivery; and
establishing services or pilot projects that include best practices for replication by governmental, nongovernmental and international nongovernmental organizations.

国際NGOはしばしば、国による直接サービスがほとんど、あるいは全くないところでの車いす供給に携わっている。こうした組織の方針と実践では、すべての人が平等にアクセスできるよう調整された車いす供給を推進するべきである。

車いす供給における国際NGOの役割には、

・国内で車いすが供給されないところで、ユーザーの差し迫ったニーズに応える
・国を支援し、車いす供給に関してその使命を全うできるようにする
・国の機関が、国内の適切な車いす適合直接サービスのシステムを開発できるよう援助する
・その活動が、広範で長期的な計画の一部をなし、当該機関(たとえば政府)により承認され、支援されていることを確証する
障がい者組織の、車いすへアクセスしパートナーシップを発展させる力量を高める
・さまざまな関係者——車いすユーザー、車いすサービス供与者、政府——間の連携を促す
・国内では得られない専門的な技術研修を施すことによって車いすサービスを実行し、車いす適合直接サービスにおける、技術と組織両面の力量を高める。
・サービスあるいは先行プロジェクトを創設し、その中の最高の実践例が、政府、NGO、国際NGOによって模範とされるようにする

ことが含まれる。

1.9.6 Disabled people’s organizations
1.9.6 障がい者団体

Disabled people’s organizations have a crucial role to play in the planning, initiation and ongoing support of wheelchair service delivery. As organizations, they are able to advocate more effectively than individuals for users’ needs.

障がい者組織の役割は、車いす適合直接サービスの計画、取りかかり、実施中の支援において決定的に重要である。それらは組織として、個人によるよりも車いすユーザーのニーズを効果的に主張できる。

To be effective, disabled people’s organizations need knowledge and experience with appropriate products and services. Such organizations played an important role in preparing the Convention on the Rights of Persons with Disabilities and will continue to be involved in its implementation in the future. Wheelchair users have an important role to play in implementing Article 20 of the Convention concerned with personal mobility and of Article 26 addressing habilitation and rehabilitation. 

効果的であるために障がい者組織に必要なものは、適切な製品とサービスに関する知識および経験である。そうした組織は「障がい者の権利条約」の作成において重要な役割を果たし、その将来における実施にも引き続き関与している。車いすユーザーは同条約の、自立した移動に関する第20条およびハビリテーションとリハビリテーションに関する第26条の実施において、重要な役割を担っている。

The role of disabled people’s organizations in wheelchair provision includes:
defining user’s needs and barriers to equal participation;
raising awareness of the need for effective wheelchair provision and financing;
consulting with policy planners and implementers in the development of wheelchair services; 
raising awareness of wheelchair services, and identifying people who need wheelchairs and linking them with wheelchair services;
monitoring and evaluating wheelchair services;
advocating against inappropriate wheelchair provision, and that wheelchair services comply with agreed guidelines; and
supporting users by providing peer support and training.

障がい者組織の車いす供給における役割には、

車いすユーザーのニーズおよび平等な社会参加に対する障壁がなにか、明確にする
・効果的な車いす供給および資金供与の必要に対する関心を喚起する
・政策立案者および実施者からの、車いすサービス開発に関する諮問に応える
車いすサービスへの関心を喚起し、車いすを必要としている人を把握し、かれらと車いすサービスを結びつける
車いすサービスをモニターし評価する
・不適切な車いす供給に異議を唱え、車いすサービスが決められたガイドラインに従うようにする
・当事者どうしでの支援やトレーニングを提供し、車いすユーザーを支援する

ことが含まれる。

1.9.7 Users, families and caregivers
1.9.7 車いすユーザー、家族、介助者

Users and their groups are at the centre of developing and implementing wheelchair provision (Fig.1.13). They can help ensure that wheelchair services meet their needs effectively. 

車いすユーザーとそのグループは、車いす供給の開発や実施の中心となる(図1.13)。かれらは車いすサービスが自らのニーズを効果的に満たすのが確実になるよう、協力することができる。

Fig. 1.13. Users group 
図1.13. 車いすユーザーのグループ 

The role of users includes: 
participating in the planning, implementation, management and evaluation of wheelchair provision; 
• participating in the development and testing of wheelchair designs; 
• working within wheelchair services in clinical, technical and training roles; and 
• supporting and training new users.
Some users permanently rely on members of their family to assist with day-to-day activities of living, while others may be more independent. Where a family member or caregiver is responsible for assisting a user on a daily basis, such as a parent of a child with cerebral palsy, he or she should also be involved in all the roles listed above for users.
Family groups for parents, siblings and other relatives of children with disabilities are encouraged to undertake the activities listed under in Section 1.9.6.

車いすユーザーの役割には、

車いす供給の計画、実施、運営、評価に参加する
車いすデザインの開発および試験に参加する
車いすサービスの内部で働き、臨床、技術、トレーニングで役割を果たす
・新来の車いすユーザーを支援し、トレーニングを施す

ことが含まれる。

車いすユーザーには、日々の生活行動を、つねに家族の援助に依存している人もいれば、もっと自立した人もいる。家族や介護者が、たとえば脳性麻痺児の親のように、車いすユーザーへの支援に日々責任を果たしている場合、かれらは上記一覧に掲げたユーザーの役割も、すべて引き受けることになる。
障がい児の家族、すなわち親、兄弟姉妹やその他の親戚には、1.9.6.節末尾に掲げた一連の活動をも、引き受けることを奨励する。

Box 1.4. Wheelchair user at policy and implementation level in Uganda 
In Uganda, a wheelchair provision stakeholders’ meeting was held in 2004, hosted by the Ministry of Health and sponsored by the Norwegian Association for the Disabled. This allowed users, disabled people’s organizations, producers, government departments and donors to contribute their perspectives on the current situation of wheelchair provision, to agree on long-term goals, and to plan how to achieve them. The meeting led to the appointment of a wheelchair user as Wheelchair Project Officer within the Ministry of Health. This person’s own experience has enriched the process of wheelchair service development in the country by bringing a user’s perspective to the policy and implementation level. 

コラム 1.4. 政策および実施レベルにおける車いすユーザー@ウガンダ 
ウガンダでは車いす供給の関係者会議が2004年、保健省主催でノルウェー障がい者協会の後援のもと開かれた。この場で、車いすユーザー、障がい者団体、製造者、政府部局、資金援助者に、車いす供給の現状についてそれぞれの見通しを述べ、長期的なゴールについて合意し、それをどうやって達成するか計画させることができた。この会議は、車いすユーザーを保健省の車いす事業担当官に任命することにもつながった。この人じしんの経験は車いすユーザーの視点を政策および実施レベルにもたらし、同国の車いすサービス開発のプロセスは、より豊かなものとなった。

Summary

• About 1% of a population need a wheelchair. 
• Rights to wheelchairs are outlined in the United Nations policy instruments “Convention on the Rights of Persons with Disabilities” and “Standard Rules on the Equalization of Opportunities for Persons with Disabilities”. 
• Using an appropriate wheelchair benefits the health and quality of life of the user, and can lead to economic benefits for the user, the user’s family and society as a whole. 
• Wheelchair provision includes the design, production and supply of wheelchairs and wheelchair service delivery. 
• When developing approaches to wheelchair provision, it is necessary to consider financial and physical barriers for users, their access to rehabilitation services, and user education, information and choice. 
• There is a need for different types and sizes of wheelchair owing to the diversity of needs among users. 
• Stakeholders involved in wheelchair provision include policy planners and implementers;
manufacturers, suppliers and donors of wheelchairs; providers of wheelchair services and professional groups; national and international nongovernmental organizations and disabled people’s organizations; and users, their families and caregivers.


まとめ 

・人口の約1%に、車いすが必要です。
車いすへの権利のあらましは、国連の法令では「障がい者の権利条約」および「障がい者の機会均等化に関する基準規則」に示されています。
・適切な車いすの使用は車いすユーザーの健康と生活の質にとって有益で、ユーザーおよびその家族や社会ぜんたいの経済的便益にもつながります。
・「車いすの供給」には、車いすのデザイン、製造、配給および車いす適合直接サービスが含まれます。
車いす供給を発展させる取り組みでは、車いすユーザーの金銭的・身体的な障壁、リハビリテーションサービスへのアクセス、ユーザー教育、情報、選択を考慮する必要があります。
・さまざまな種類の車いすが必要なのは、車いすユーザーのニーズが多様であるからです。
車いす供給に関わる人びとには、政策立案者および実施者、車いすの製造・供給・寄付者、車いすサービス供与者および専門家集団、国内・国際NGOおよび障がい者団体、車いすユーザーおよび家族・介護者が含まれます。

Reference
参考文献

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アガルワール:自由なインドのためのガンディー主義憲法 第11章

(p.101)
XI
選挙制度

 前の章でも明らかにした通り、この憲法案が提唱する選挙制度は、むらパンチャーヤットでは直接制、タルカ、地区、州、全インド中央政府に関しては間接制を採っている。この制度は、直接選挙と間接選挙両方の、いちばんの長所を結合するものだ。村の選挙は直接制で、それが最大限の地方自治をもたらす。また上位組織の機能は助言や調整が主なので、間接選挙が適切なやり方である。それは、とくにインドのような広大な国で、直接選挙に莫大な労力や時間、お金が浪費されるのを防ぐ。また政党や宗教的排他主義の不健全な成長をかなりの程度、自動的に抑制する。間接選挙を行なうのは少数の責任ある個人に限られるため、買収や賄賂の入りこむ余地はない。のみならず、上位組織の代表者を、選挙民を忘れる立場に置かない。なぜなら、かれらはその地位を下位パンチャーヤットからの委任に負っているからだ。この憲法案では、下位パンチャーヤットの長はその職務として、一つ上位のパンチャーヤットの構成員を兼任する。だから、全インド・パンチャーヤットの長でさえ、自分の村のパンチャーヤット長でもあり、どうじにタルカ、地区、州それぞれのパンチャーヤット長でもある。だから、かれは人びとの困難や要求を知り抜き、また感知できることになり、たんなる「肘掛椅子に収まった」政治家ではありえない。いかなる上位組織の構成員も、人びとに対して市民としての責務を満足に果たせなければ、つぎの選挙で当選する見込みはなくなる。それどころか、自分の村のパンチャーヤットから解職請求されることもありうるが、そのときは、より上位のすべての組織でも資格を剥奪されることになろう。そして村の選挙民は少数で、選挙への立候補者を直接にかつ詳しく知っているため、選挙詐欺の可能性は根絶されるであろう。

参政権

 参政権や投票資格が問題となるのは、むらパンチャーヤットの選挙に限られる。村の選挙は、カースト、信条、性別、宗教、社会経済的立場、学歴に関していっさい差別しない、成人の参政権に基づく。読み書き能力も、投票人の資格として必須ではない。ガンディーが言うには、
「私がおよそ耐えられない考えとは、『選挙権は富裕なものが持つべきで、人格が優れていても、貧しいか読み書きできないものは持つべきでない』あるいは『日々額に汗して正直に働く者は選挙権を持つべきでない、なぜなら貧しさという罪を負っているから』といったものだ・・・私は読み書き能力に関して、選挙人たるには最低『3つのR(読み・書き・計算)#1』を知っていなければ、といった教説には惹かれない。私も、人びとに3つのRは知っていてほしい。しかし同時に分かっているのだが、かれらが3つのRを知り、それから選挙人資格を与えられるまで待たなければならないとしたら、その日は『ギリシャの朔#2』であろうし、それまでずっと待ち続ける自信はない。」*1


#1 =Reading, wRiting, aRithmetic
#2 原文ではGreek Kalends。古代ギリシャ時代には西暦が始まっていないことに鑑み、「決して来ない日」の例え。
*1 円卓会議での演説から。

特別資格

 パンチャーヤットの構成員や役員[の資格]に厳格なルールを嵌めることはできないが、以下に挙げるような特長を重視して、選挙人はどの候補者に票を投じるか選ぶべきだろう。

(a) 読み書き能力と全般的な教育程度。
(b) 市民生活におけるじゅうぶんな経験。
(c) 財政的な独立(収賄の機会を除くため)。
(d) 堅実で無私な、むら共同体への奉仕の実績。

 この道理で行けば、票の勧誘などはすべて欠格事項と見なせる。パンチャーヤットの構成員になることは重い責任を負うことであり、単なる名誉職とか役得の類と考えてはならない。

統一選挙

 この憲法案が保証する基本権はたいへん明確なので、分離選挙あるいは宗教別選挙の必要は消滅する。じっさい、イギリス人官僚がこの国に導入した分離選挙は、宗教的な苦難や不和の根本的な原因の一つである。この点は後述する「少数者問題」の章で徹底的に議論されよう。ここでは差し当たり、統一選挙こそが、この自由なインドのための憲法における代表制の根底をなす、と述べるにとどめる。

くじ引き選挙

 以下のような、たいへん興味深い古代の選挙制度が、ウッティラメルール#1の二つの有名な碑文から明らかになっている。
「村には12本の通りが走り、選別のために30の住区、あるいは選挙単位に分けられた。集会がそれぞれの区で持たれると住人は集まらねばならず、各人は札に投票したいと思う者の名前を、集会で定めた委員としての適性に照らしてよく考えたうえで記入しなければならない。それから札は30の住区別に包まれた。それぞれの包みにはその住区の名前が、施された『封緘札』に記された。これらの包みは壺に納められた。それから壺は『大集会の総会』の場に引き出されたが、そこには(構成員の)老いも若きも、その日たまたま村にいた僧侶たち全員も『いかなる例外もなく』大集会の開かれる内陣に集まった。『僧侶たちの中から、そのいちばんの年長者が立ち上がり、その壺を持ち上げ、みんなに見えるよう掲げた。』『その中に何が入っているのかも知らない幼い少年がひとり、包みの一つを取り出すよう命じられた。この包みの中の札はそれから「別の空の壺に移し替えられて振られた」』すなわち、入念に混ぜられた。それから少年は壺の札を一枚引き、仲介者(madhyastha)に渡した。『こうして与えられた札を、仲介者は五本の指を開いた掌で受け取る。こうして受け取った札に書かれた名前をかれは読み上げる。かれが名前を読み上げた札は、内陣に控える僧侶全員も読み上げる。こうして読み上げた名前が、書き留め、承認される。』こうして30の名前が選ばれ、それぞれの住区を代表する。」*1

 このくじ引きによる選挙方式は真に民主的とは言えないかもしれないが、村の社会生活に透明さと善意をうながすだろう。それらを欠いている点で、現代の選挙にともなう苦痛や憎悪は際立っている。この古代のやり方は、必要な修正を施した上で、場合によっては復活させてよいだろう。たとえば、さいしょに一群の候補者を記名あるいは無記名投票で選出すれば、その中から一人をくじ引きで選ぶこともありうる。なぜなら、その候補者群の人びとはみな、ほぼ同様に優れた資質を備えているだろうから。こうした「候補者群からくじ引き」方式は民主的かつ調和の取れたものであろう。#2ゆえに、この選挙手法を、統治のなるべく多くの分野で採れるようなやり方の研究が望まれる。

*1 “Local Government in Ancient India” by Dr. Radhakumud Mookerji, pp.171-172
#1 原文ではUttaramallur、タミルナードゥ州の町で、チョーラ朝の10〜12世紀に作成された碑文がヒンドゥー寺院に残されており、当時の地方自治の様子を伝える重要な史料となっている。
#2 少数者問題に関連している。

アガルワール:自由なインドのためのガンディー主義憲法 第10章(2)

むらパンチャーヤット

 むらパンチャーヤットは法の執行を委託されているから、司法パンチャーヤットを別に設ける必要はない。貧しい農民に村から出て、苦労して得たお金を費やしながら数週間や数か月を町で訴訟のためにむだに過ごす必要はない。必要な証人はすべて村にいるのだし、自分じしんの係争で弁護士からしぼり取られる必要はない。もし法的にややこしい点が生じたばあいは、タルカあるいは地区から副判事が村に来て、パンチャーヤットを補佐し、難しい事件に判決を下せるようにすればよい。副判事の役割は、ガイド、友人あるいは哲学者として、無知な村人たちに国法を理解させることでもある。こうした司法制度は、簡潔で迅速かつ安上がりなだけでなく、「正義」でさえある。なぜなら民事や刑事事件の詳細は、多かれ少なかれ村では公然の秘密であり、そこに詐欺や法的マジック余地はないからだ。

*1 ‘The Hindusutan Times,’ October 22, 1945.

(p.99)
地区裁判所

 むらパンチャーヤットが、民事や刑事にわたる幅広い司法権力をもっている以上、タルカ裁判所は不要だろう。特殊な事件で、村むらから訴えがあった場合は、直接地区裁判所が受け付ける。町での争いごとも、地区裁判所が初審となる。その裁判官は地区行政官とは完全に独立で、地区パンチャーヤットが任命し、任期中は品行方正である限り罷免されない。

高等裁判所

 たいへん例外的な事件で、地区裁判所が提訴した場合は高等裁判所に預けられる。高等裁判所裁判官は行政から完全に独立で州パンチャーヤットが任命し、任期は品行方正である限り終身とする。

最高裁判所

 インド最高裁判所は国で最高の司法的権威をもつ。その機能は次の通り;

(a) 高等裁判所からの提訴を受理する。
(b) 憲法判断に関わる、連邦単位どうしの紛争から発生した事件を、初審として裁定する。
(c) 宗教に関する少数者の利益を、憲法が定める基本権を厳しく守らせることを通して保護する。

 ここの裁判官は全インド・パンチャーヤットが任命する。かれらは最高の能力と人格を備え、宗教的排他主義や党派政治とは完全に無縁の人びとでなければならず、その任期は品行方正である限り終身とする。

法律の見直し

 現行の民法や刑法は、インドの土壌にとっては外来種である。つまり複雑で難儀にすぎる代物だ。したがって、この新しい憲法のもとで、それらを徹底的に見直す必要がある。専門家による特別委員会を、この目的のためインド憲法制定会議は任命するであろう。

アガルワール:自由なインドのためのガンディー主義憲法 第9章(3)

連邦の構成単位

 全インド・パンチャーヤットは州や国ぐにの自発的な連合であり、それら連邦の各単位は、最大限の地方自治を行なう。地理や文化に立脚すればインドはひとつにして不可分なのだから、すべての州とインドに属する国ぐには、国民の福利を増進するそうした連合には喜んで加わるだろう。あらゆる努力が、親密な協同、および共通の国民生活の発展に必要な環境づくりに対して払われねばならない。
 しかし、いかなる単位領域も、その成人が表明し、確定した意思に逆らってまで全インド連邦への加入を強いられることがあってはならない。従来、分離独立に触れることは意図的に避けられ、自発的に参加することが暗黙の前提とされてきた。その適切な例としてソヴィエト連邦を挙げると、分離独立の権利は11の「連邦共和国」に限り与えられている。すなわち、数多くの他の単位、たとえば「自治共和国」などには保障されていない。その上、連邦共和国にとってさえ、分離独立権は名ばかりのものだ。現在よく知られているように、分離独立を引き起こすような活動を、ソヴィエトの裁判所は反逆ないし反革命とみなしている。
 しかし、武力を背景に何かを強要するといった問題は、非暴力主義の国家では起こりえない。連邦に加盟するのもしないのも連邦単位の自由であれば、分離独立権を合法的に留保する、といったことは起こるはずがない。しかし、「ガンディー主義憲法」のもと、寛容、善意、協同の空気が全体に満ちあふれるところでは、どんな分離独立への要求あれ、ありえない仮定、ということになるだろう。

言語
 全インド・パンチャーヤットのあらゆる業務はヒンディー語、またその表記はナーガリー[デーヴァナーガリー]またはウルドゥー文字による。