サルコジへの覚書:自由貿易を忘れよ

サルコジへの覚書:自由貿易を忘れよ
(クレア・プレモ筆、ニューズウィーク誌2008年10月31日)

 自由貿易は失敗だった、新しい経済モデルの出番だ−−著述家であり研究者、エマニュエル・トッドは、今週号のLe Nouvel Observateur誌でこう語った。

 彼は低迷する景気へのニコラ・サルコジ仏大統領の対応を批判し、サルコジは危機から教訓を学んでいないという。教訓とは、昔からの習慣に多少手を加えて対策を講じるのではなく、いわゆるフツーのやり方を完全に分解掃除し組み立て直すことが必要、ということだ。
 トッドが信じるところでは、自由貿易がじっさいにやって来たことは、需要を動揺させ、社会不安を生み、生活水準を引き下げることだった。この趨勢に反対し、保護主義こそがヨーロッパ民主主義に残された最後のチャンスだ、と彼は主張する。

 トッドはいう。かつては有益だった自由貿易の旬は、とうに過ぎてしまった。われわれが知っているようなグローバル化はすでに終わった。内向きの引きこもりこそが最良の道なのだ。ヨーロッパは、規制された経済圏となり輸入品やアウトソーシングから護られることを決断しうる。その4億5千万の人口があれば、この目標は見た目ほど遠くない。なぜなら自給自足への相当な潜在力となるからだ。
 トッドの核心にあるのは、保護主義はたんに輸入を止める以上に、国内需要を刺激しヨーロッパ人の給与を引き上げる条件を作り出すことにより意味がある、という信念だ。保護主義への移行は可能だ、もしフランスのエリートたちが自らの社会的責任を自覚し、旧大陸の老衰を食い止める手段として保護主義を推進しさえすれば。

 しかしすべては、ドイツがこの新しい方針を受け入れるかどうかにかかっている。フランス人は認めたがらないにせよ、ドイツこそヨーロッパの経済的生産の心臓である。ドイツの舵取りなしにヨーロッパの経済が転換することなどありえない。必要なことは、ドイツに、域内需要を増やす方が、先行き不確かなグローバルな需要に依存するより得るものが大きいことを分からせることだ。ドイツの参加を進めるには、フランスがドイツの政治的・経済的な力を認め、ドイツに保護主義のヨーロッパを再設計する責任への自覚をうながすことだ、とトッドは考える。

 トッドの主張では、これこそがヨーロッパの子どもたちに未来を保証する、最良のシステムである。彼によれば自由貿易は「2世代を破壊してきた」。これをくり返さないただ一つの道は、新しいヨーロッパ経済のモデルを発明することにかかっている。
(松本和志訳)

英語原文はこちら
http://blog.newsweek.com/blogs/ov/archive/2008/10/31/good-fences-make-good-traders-a-french-view.aspx