毒書記録2009.06.21

東インド会社とアジアの海(羽田正、講談社 興亡の世界史15)
http://www.amazon.co.jp/%E6%9D%B1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%AE%E6%B5%B7-%E8%88%88%E4%BA%A1%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%8F%B2-%E7%BE%BD%E7%94%B0-%E6%AD%A3/dp/4062807157/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1245583554&sr=1-1

たいへんな労作。中公の「世界の歴史15」にサファヴィー朝イラン史も書いている著者らしく、スペイン・ポルトガルからイラン、インド、日本、インドネシアまでくまなく押さえて17〜18世紀のアジアの海での貿易を活写している。オランダ東インド会社にもくわしく触れており、オランダ在住者にはとくに面白いだろう。

収穫だったのはオランダのアジア貿易のやり方が対中国、日本と対南洋諸島ではまったく異なっていたことで、後者では南米のスペイン人よろしく島民皆殺し、強制移住などもけっこうやっていたことは初めて知った。オランダの学校ではこの辺はどう教えているのか興味深い。

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ムガル帝国から英領インドへ(世界の歴史14、中央公論社
http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2-14-%E3%83%A0%E3%82%AC%E3%83%AB%E5%B8%9D%E5%9B%BD%E3%81%8B%E3%82%89%E8%8B%B1%E9%A0%98%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%B8-%E4%BD%90%E8%97%A4-%E6%AD%A3%E5%93%B2/dp/4124034148/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1245583083&sr=8-1

3部構成で、第2部の「英領インドの形成」が面白く読め、またたいへん勉強になった。第1部はムガール帝国とその前史という恐ろしく広範な歴史を詰め込んだせいかやや駆け足に過ぎる感がある。おそらく、ゆったり一巻をあてた方がよかったのだろう。第3部は近年バックパッカーには人気の南インド史に焦点を当てており、ギアーツのいうバリの劇場国家との共通性を感じさせるなど、「インド洋文化」とでも言えそうな文化圏の存在を教える。

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長屋王家木簡と奈良朝政治史 (大山誠一、吉川弘文館 古代史研究選書)
http://www.amazon.co.jp/%E9%95%B7%E5%B1%8B%E7%8E%8B%E5%AE%B6%E6%9C%A8%E7%B0%A1%E3%81%A8%E5%A5%88%E8%89%AF%E6%9C%9D%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%8F%B2-%E5%8F%A4%E4%BB%A3%E5%8F%B2%E7%A0%94%E7%A9%B6%E9%81%B8%E6%9B%B8-%E5%A4%A7%E5%B1%B1-%E8%AA%A0%E4%B8%80/dp/4642021671/ref=sr_1_5?ie=UTF8&s=books&qid=1245584059&sr=1-5

大山誠一氏の著書を立て続けに読んで、たぶんこれが最後。長屋王木簡の研究をベースに、律令国家での天皇制や日本書紀の成立する背景を論じている。

大山氏が論じる律令制の下での天皇の位置づけは、乱暴にいうと

・(易姓革命や豪族の台頭を避けるべく)最高神の子孫として神格化され、
・(藤原氏専制を実現する道具として)タテマエ上は無制限の権力を行使しうる専制君主で、
・(天皇自身の親政をも防ぐため)しかし同時に、担ぐ人々の合意や許可なしには動けない御神輿的存在

と要約することができるだろう。こう考えると明治憲法での(軍部と革新官僚が独走するまでの)天皇制とほとんど変わることがなく、また美濃部達吉天皇機関説は、古代以来の伝統を現代風の言い回しで述べたにすぎないことが分かる。