ルネッサンス考

ルネッサンスというのは、なんとも雲をつかむようなことばだ。時期でいうと13世紀(下手すると12世紀)〜17世紀はじめの300年以上にもわたり、イタリア、西ヨーロッパ、スペインをカバーする。ダンテもミケランジェロシェイクスピアセルバンテスケプラーもみんなルネッサンスでは、面食らうのはあの世の故人たちではなかろうか。

学界でも、ルネッサンスはイタリア芸術史の一時代を指す、きわめて限定的なことばとして用いた方がよい、という意見があるそうだが、たしかに頷ける。また「renaissance=再び知る」って、古代ギリシャの思想などはまったく忘れられていたかもともと知られていなかったわけだから、語義の方もあまり適切ではないように思う。

ではいっぱんにルネッサンスと呼ばれる現象や時代を、新たに名付けるとすればどんなことばが適当だろうか。ここヨーロッパで支持される可能性は薄いが、私はユーラシア化 Euroasianizationと呼ぶことを提唱したい。べつに私がアジア人ゆえの身びいきから言っているのではない。異星人が地球を観察しても同じような呼び方をするだろう、くらいの自信はある。

ルネッサンスの始まりが、十字軍の持ち帰ったイスラム世界やビザンツの文物に刺激されたものであることはもはや常識である。第2波の14世紀後半はモンゴル帝国の最盛期で、マルコ・ポーロイブン・バットゥータがユーラシアを東西に横断し、中国の文物や文明がヨーロッパに紹介され衝撃を巻き起こした時期にほぼ一致する。また第3波に当たる15世紀終わりが、ビザンツ帝国の滅亡とともに知識人たちがイタリアに流れ込んだ時期であることも、参考書などに載っている通り。また、ルネッサンスの終わりが西ヨーロッパ諸国の東インド会社設立、北米やインド洋貿易への本格的な進出の時期に当たることも注意が必要だろう。つまり東方の文化を受け取る段階から攻勢をかける段階に変わったとき、ルネッサンスは終わる。

そう考えると「ユーラシア化」「ユーラシア化の時代」でなんら問題はないように思う。また、刺激は受けたが独自の発展を遂げたではないか、というありそうな反論には、非西欧世界の「西洋化」「近代化」も同様、と申し添えたい。