アジア姿勢保持プロジェクト:レポート2014.12

本プロジェクトが2014年12月に実施した事業につき、以下の通り報告します。

事業名:バーン・フアンファーでの製作・調整およびワークショップ

日時:2014年12月23・24日

場所:バーン・フアンファー(障がいをもつ、身寄りのない0〜7歳児の養護施設)、タイ王国ノンタブリー県パークレット郡

事業実施者:
山崎雅幸(姿勢保持専門家。アジア姿勢保持プロジェクト、株式会社シーズ)
松本和志(通訳、コーディネーター。アジア姿勢保持プロジェクト)

学習者:
マムアンさん(理学療法士バーン・フアンファー勤務)
チャトリーくん(車椅子製作者、Sawasdee Promed Co. Ltd.)

事業協力者:
東村まゆみ(理学療法士青年海外協力隊バーン・フアンファー勤務)
プーさん(理学療法士バーン・フアンファー勤務、渉外担当)
ほかバーン・フアンファーのスタッフの皆さん

見学者:
熊澤友紀子(WAFCAT財団事務局長)

事業対象者:
バーン・フアンファーで生活するほぼ寝たきりの(車いすに座れず、持ってもいない)子ども4名
医療ケアが必要な同施設の子どもで、水頭症の子1名


事業内容:
ほぼ施設で寝かせきりの子ども4名に、日本から持参した車いす2台、チルト&リクライニング機能のあるバギー1台を寄贈。

寄贈した車いす、バギーおよび施設の遊休車いす1台を改造・調整し、上記の子ども4名が座って生活できるようになった。

作業は23日午前〜24日昼にかけて行い、製作と並行してプロセスや要点をマムアンさん、チャトリーくんに説明した。
24日午後、完成した車いす・バギーに座った子どもたちを前に、バーン・フアンファーの職員約10名に対し山崎がプレゼンテーションを行った。

プレゼンテーションのあと医療ケアが必要な子どもの棟で働く施設職員の依頼で、病院へ搬送する時いがいほぼ寝たきりの水頭症の子1名を、タオル等を使ってバギー(さる8月のワークショップに持参したものがサイズ違いのものと交換したため遊んでいた)に座らせ、要点を山崎が説明。このバギーは同棟に寄付。


事業成果:
施設から当初頂いていた要望には、すべて応えることができた。

テーブルの付いた車いすに安定して座り、自由に手を動かせるようになるや、早速iPadで遊びはじめた子どももいて、QOLの向上は明らかである。

事業者は水頭症の子どもの姿勢保持というこの施設での新たなニーズを発見できた。またそうした子どもも適切な姿勢保持により座れることを示せた。

専門職のスタッフからは、まず子どもたちが座って生活できるようになったこと、また介護スタッフなどにそれを見せることができたことで、高い評価を得た。

いっぽう、座れることによる活動の広がりなども示したかったが、時間の制約などもありそこまでは十分至っておらず、この辺の成果・効果は未知数。

なるべく早く座ることで二次障がいを予防できる、といった意義に関しては伝えきれていない。

さいしょ何が起こるのか観察モードだった学習者も、仮合わせなどで子どもたちが座れる様子を見るうちに、積極的に参加するようになった。おしまいには、どこでこういう技術を学べるのか、日本へ勉強に行くことはできないか、といった質問を発していた。

介護スタッフの間では、主に若いスタッフ、および医療措置が必要な棟のスタッフが本プロジェクトを高く評価し、バギーの扱い方、姿勢保持のポイントなどを積極的に学んでいた。

今回は日本製の機器に加えタイの既製機器の改造も行い、それで対応できる子どももいることをタイ側にも示せた。

さいごのワークショップでは、施設の介護スタッフなどからも機器のみならず日本の状況などについて活発な質問があった。

今回の事業を通じて、「バーン・フアンファーの寝かせきりの子どもを全員座らせる」という、たいへん明確な目標を設定することができた。


今後の課題:
スタッフの反応の中には「日本は(子どもが様々な姿勢保持装置を使えて)いいね」など、「お金があるからこういうことができるのだろう」「やはり自分たちとは状況が違う」といった感じのものも見られ、これは事業者の目指す方向とは逆である。やはりタイの技術で、タイ人自身の手で製作・供給できることは、強調してし過ぎることない。そのためには、①タイで手に入る素材や技術、既製品を極力活用すること、②いっしょに製作する作業を通じて技術を自分のものとして頂くこと、③タイでも供給可能なコストで作れることをプロジェクトを通して示していくこと、加えて、⑤現場スタッフや当事者・家族の声が制度なり状況を変えるいちばんの力であることを、日本の経験から訴えて行くことが必要であろう。今あるものでここまでできる、ということを示しながら、あきらめに逃げさせない工夫が必要である。

今回は4名の子どもが座れるようになったが、施設全体で200名超の子どもが寝かせきりで、全国の町や村で、おそらくほとんどは寝たきりで生活している在宅の重度障がい児なども考えれば、これは大海の一滴であろう。一人でも多くの子どもに事業者の手で座って立つ生活を実現することと並行して、一人でも多くのタイ人製作者を育成すること、姿勢保持装置の存在や意義を一部の専門家に限らず知って頂く作業を継続する必要がある。4名が数十名に増えれば施設スタッフの意識も変わり、それは同様の他の施設、管轄官庁、政策にもインパクトを与えると確信している。

本事業は、この施設の200名の寝かせきりの子どもがみんな座って生活できることを目標に継続したいと考えているが、そのためにはPTなどの専門家も含むさらに大きなチームを組めることが望ましい。明確な目標があり、日本から派遣できる専門家のリストも充実している現在、財源確保が最大の課題である。

この施設にはバンコク日本人学校の生徒さんも年二回、ボランティア活動で訪れている。寝かせきりの子どもが座れ、さらにそうした子どもたちと同じ目の位置で遊べるところまでを示せれば、本事業はさらに意義のあるものとなるだろう。

さいごに、今回も事業者の訪問を快く受け入れ、暖かいご協力を頂いたバーン・フアンファーをはじめタイの皆様に心より御礼申し上げます。