ドレミファ考

結論からいうと、音階の階名「ドレミファソラシド」を修正することを提案したい。

理由1:
 レはre、ラはlaなのだが、日本語はrとlを区別しない。もちろん、これは日本語が言語として劣っている等々、といった問題ではない。たとえばヨーロッパ語圏の人間も、中国語などの反り舌音を聞き分けることはできない。むしろ日本人がイタリア語の階名を日本語の習慣に合わせる努力をしなかったことが問題なのだが、音階のそれぞれの音には、それぞれ異なる子音が対応しているほうが合理的ではないか(詳しくは理由2)。rとlを聞き分けられるようにすれば良い、という意見もあると思うが、その機会に恵まれる人は限られており、それに要する努力は(声楽を除き)なんら音楽と関係ないし、できる年齢に限界があり(私は歳とりすぎていた)、やはり母語で歌えるに越したことはないと思われる。
 なおソとシは、本当はソとスィなので辛うじて区別されているが、同様の問題があると考える。
 ちなみに、イタリア語のドレミファも、アラビア語の階名、
dal ra min fa sad lam sinから来たらしい(ジクリト・フンケ「アラビア文化の遺産」みすず書房、p.317)。ほんらいは、なにか意味のあった順番なのだろう。

理由2:
 理由1の結果、日本語で12音階名を表記することが不可能になってしまう。12音階名はバークレー音楽院(私が学んだユトレヒト音楽院の軽音楽科も。音楽理論の教官がバークレー出だった)などで採用しているらしく、たとえばハ長調の場合、

C Db D Eb E F F# G Ab A Bb B(異名同音は略)
Do Ri Re Me Mi Fa Fi Sol Li La Te Si

 でソルフェージュを行なう。もちろん慣れが必要(じつはまだ練習中・・・)だが、これだとハ短調ではMiがEbになる、といった曖昧さがなく、全音音階(ホールトーンスケール)とか8音音階(ジャズ用語でいうコンディミ)にも簡単に対応できる。一つの音には一つの音声が対応している方が、相対音感を身につける上でも効率かいいだろう。ところが日本語ではDbとAbはまったく同じ音声として認識されてしまう。

で、提案:
 日本語の階名は、12音でいうと、ハ長調のばあい

C DbD EbE FF# G AbA BbB
ど ひへ めみ ふぁふぃ そ りら てち (1)
ど いえ めみ ふぁふぃ そ りら てち (2)
ど ゐゑ めみ ふぁふぃ そ りら てち (3)

 などにする。スラーをかけても歌えるように「ゴツゴツ」した子音は避ける。また、私の経験では日本人の耳にはフランス語のrはハ行に聞こえることが多いようで、「ドレミ」より「どへみ」の方が正確、と強弁できなくもない。

 たとえば(1)にしたがうと、

長音階:どへみふぁそらちど

リディアン:どへみふぃそらちど

ミクソリディアン:どへみふぁそらてど

自然的短音階:どへめふぁそりてど

和声的短音階:どへめふぁそりちど

旋律的短音階(上行→下行):
どへめふぁそらちど→どてりそふぁめへど

全音音階:どへみふぃりてど

メジャー7thの分散和音:どみそちそみど

マイナー7thの分散和音:どめそてそめど

タンゴ(ミロンガ)によくあるベースライン:
どーりーそ どーりーそ

よくあるキュー:そみそりらてちどー

The Chicken (James Brown)のキメのフレーズ:どてっそっふぁめっどてっ どっ!

 など、慣れれば西洋音楽を学ぶ上で、はるかに合理的だと思われる。もちろん、はじめから12階名を学ぶ必要なないが、それにつながるように、「どへみふぁそらちど」から始めて拡張して行けば良い。

 ただ唯一にして最大の難関は、すでに従来の階名に慣れている人びと、とくに音楽家や音楽教師の抵抗ではなかろうか。トロンボーン(調子はBb)の譜面が相変わらずへ音譜表(in C)で書かれているのと同じことである。