書評「新憲法の誕生」古関彰一、中公文庫

 日本国憲法に関心のある人には、ぜひ読んでほしい一冊。

 明治憲法から日本国憲法への改正過程と、そこで誰のどんな思惑が、どうその条文に影響したのか、が克明に解き明かされている。また、当時の世論や憲法を取り巻く状況も、印象的なエピソードを通して活き活きと伝えている。

 もはや本書を読んだ後では、日本国憲法を単純に「世界に誇る憲法」とも「アメリカの押し付け憲法」とも決めつけることはできない。ことはもっと微妙で複雑なのだ。そして未来をもたらす発想は、そのどちら側にもないことも明らかとなるだろう。

 著者の問題意識は、つぎに引用する末尾の文に要約されよう。

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 われわれは「護憲の時代」を受動的に生きることに、そろそろ別れを告げて、人類が七〇年代を通じて生み出した環境権、人種平等、情報の自由といった「新しい人権」をも盛り込んだ、「影の憲法」を掲げて生きる時代を迎えている、といえないだろうか。そういう時代を生きるわれわれに、「新憲法の誕生」にさいし、議論し尽くされず、あるいは切りすてられた問題は、さまざまなことを教えてくれるにちがいない。

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 護憲派はもちろん、改憲派すらも、この問いかけに満足に答えているとはいえない。残念ながら現在、日本人の憲法への想像力/創造力は、明らかに自由民権時代よりも、また占領時代よりも劣っているのではないか。

(追補)それにしても、こう書いた著者がいまや護憲派イデオローグのひとりに祭り上げられている、というのはなんとも解せない。